川柳えむ

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「スマイルください」

 店に入ってきた男はカウンターの前に立つ無愛想な店主らしき男にそう言った。
「スマイルだけですか? 他の商品もいかがでしょうか――」
「スマイルだけでいい」
 店主に聞かれ、男は遮るようにそう返す。
 店主は一瞬悲しみを含んだような、そんな表情を見せたが、すぐにいつもの無表情に戻ると会計を始めた。「スマイル一つ100万になります」
 支払いを終えた男は受け取ったそれをすぐに装着し、嬉しそうに店を出て行った。

 その数日後、近所の男が自殺したらしいという噂が入ってきた。
「……いくら笑顔でいれば世の中を生きやすいとは言っても、本音を隠して笑顔だけでいるのは、抱えた苦しみを誰にも気付いてもらえず、辛さは増すばかりなんですよ」
 店主は今日も店に立つ。いろんな表情の仮面を並べて。


『スマイル』

2/8/2024, 10:46:30 PM