たしかに

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【最初から決まってた】

 少女は、誰にも聞こえない声で言った。
 がらがらと音を立てて崩れ行く足元。建物の燃えるにおい。高さあるものはすべて消し飛んだ。視界に広がるのは、曇天。目に見えない大きなもの、『運命』と呼ばれるそれは、少女の日常を一瞬にして奪い去った。
「最初から決まってたんだ」
 緻密に絡み合った糸が解けて散り散りになるように、少女を形作っていたものは全て消えた。くだらないことで笑い合った友人。淡い恋心を寄せていた先輩。鬱陶しくも優しかった家族。チョークが黒板を擦る音。肩車する親子。香水の香り。揺れる吊り革。照りつける日差し。
「最初から決まってたんだ」
 今さら気がついても手遅れだった。目眩がする。肺が焼けるように熱い。脳が理解を拒絶している。こみ上げる吐き気を飲み込んで、少女はふらふらと立ち上がった。
 煤けた制服の裾は破けて、髪は暴風に乱れてぐしゃぐしゃだ。そんなの構わずに、天をきっと睨みつける。
 最初から決まっていた。こうして、少女が世界にたったひとり、生き残ってしまうことすら。それならば、やることは決まっている。何の力も持たない、どこにでもいる少女にできることは。
「ふざけんなよ」
 『運命』とやらに向かって、唾を吐きかけてやることだけだ。

8/7/2023, 11:12:56 AM