織川ゑトウ

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『春夏秋冬、行、帰、僕』

※長いですが是非読んで頂きたいです…!

9月下旬、夏の残り香が廊下を歩く度にふわりと漂う。
猛暑と見られた今年の夏はもう終わりを迎えているようだ。

放課後のこの時間、図書委員の僕はいつも図書室へと向かう。僕の学校の図書室は少し特殊で、本校舎の外に設置されている。なので外へ行く時、毎回外に出ている廊下を歩く。この廊下を歩いている時、最初は特に何も思いはしなかった。
だけれど、毎日その廊下の窓から見える景色を眺めていると季節の移ろい、青春の部活、そして窓に映る自分が見えるのだ。

廊下は短く、足の長い人が渡ればものの5秒で図書室に着くであろう距離。しかし、どうしても僕は1分掛けて渡りたい。春には桜が芽吹くところから、散るところまで。夏では夏休みの部活動に勤しむ生徒たちから、文化祭の後夜祭まで。しっかりと必ずこの廊下から見届けたいのだ。

植物であれば、自分がまるで親になったような気分で眺めることができる。一つの花が芽吹き、花開くまでの様は見ていて何か誇らしい気持ちになれる。だがその分、枯れてしまうといっそう悲しい。
感情の忙しい人だと思われるだろう。でも、人気のない廊下、あまりにもエモーショナルな風景、それにかさなる季節の風情となれば小さな生命ですら見逃せずにはいられない。植物の葉につたう虫にさえも情けをかけてしまうほどなのだ。

また、この学生時代でしか味わえない学校の校舎、放課後というのが更にエモい雰囲気を醸し出している。
上の階から聞こえる吹奏楽部の音色、グラウンドから聞こえる野球部のバットにボールが当たる音。廊下を談笑し渡る女子生徒…全て、学生時代にしか聞こえぬ声。
しかも時刻は夕時であるから、晴れの日には夕日がいい感じに当たって、もっともっと心躍らせる雰囲気になる。

今年は少々足早に来た秋には近くの木の紅葉が見れるだろうし、落ち葉で焼き芋を焼く生徒たちも見えるだろう。自分も混ざりたいな〜と思うことはないでも無いが、この図書委員。自分が混ざるよりも眺める方が実は好きだったりする。自ら本を読まずとも自動でページを捲ってくれるなんとも優しいこの世界は、少し視野を広げるだけで全てが物語になる。もちろんこの僕の思想も、文章にしたらきっと物語になるのだろう。
窓から見える景色はいつも色褪せることがない。見れば鮮やか、聞けば爽やか。触れればふと夢から覚める。

そう、パッと。

自分が干渉しない程度に真近で感じることのできる最大限の空気を肺に吸い込み、やっとのことで図書室に入る。自分がいつも座る椅子からは外の景色は見えない。しかし、先程の景色を脳内で咀嚼することはできる。
あぁ、本を読みたいのにと思いながら、また今日も景色に刺激され物語を綴ってしまう。

そして、気づいたら外も暗くなっている。

行きですらこんなに多くの感情を抱えてしまうのに、帰りまで渡ってしまったらもう僕はどうなるのだろう…などと他人にとってはつまらないことを思いながら、また今日も一歩踏み出す。


物語の、光の中へ。



お題『窓から見える景色』

9/25/2024, 4:22:07 PM