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そっと

起こさないように、そっと。君の生活を邪魔したくないだけなんだ。君が普段寝ている時間に不自然に起きてしまうことがないように。ゴミを片すビニル袋の擦れる音では起きない。ホッとする。着替える際の衣擦れの音でも起きない。このまま。寝ていてくれと頼みながら、最後の難関に挑む。いつもここで起こしてしまって、寝ぼけて打った『がんばれ』の文字が届くのだ。玄関に置かれた鍵を手にドアを開けてそっと外へ出る。内から鍵を開けるのは大丈夫。外から鍵を描けるのも大丈夫。最難関は鍵をポストに入れること。どんなに慎重に事を進めても"カツンッ"という音が響く。あとは運任せ。車に乗った時にメッセージが届いていたら負けなのだ。今のところ勝率は五分五分。今日は勝てるだろうか。

機嫌を損ねないように、そっと。君の顔色を伺う。君の声音に耳を澄ます。何が悪かった?どれが駄目だった?怒っているのとは違う。拗ねているのとも違う。あるのは、自分が君の機嫌を損ねたのだという事実だけ。言い方が悪かったのだろうか。それともタイミングが悪かったのか。考えても分からなくて、自分が原因だということしか分からなくて。自分を見ているだけで機嫌を損ねるのではないかと、そっとその場を離れる。君の機嫌をまた損ねてしまった。



そっと消えてなくなってしまえば。

1/14/2025, 2:28:05 PM