ストーブから立ち上る、嫌な温度を伴った重たい空気が狭い教室に充満している。目にも見えない、完全に感覚でしか分からないそいつは、確実に俺の心に染み入って、鉛のように重たく、下へ下へと引き込んでくる。
ようやく待ち望んだ解放を告げるチャイムが鳴って、俺は一目散に教室を飛び出した。向かうは非常階段。そこは、ちょっとした抜け道になっていた。屋上に普通に入ろうとしても、施錠されていて入ることはできない。しかし、非常階段から入ると、鍵が壊れていて入ることができるのだ。
屋上の扉を開くと、冷たい冬の空気が肺に突き刺さる。けれど、あの充満した憂鬱なガスよりずっと澄んでいて、ずっと息がしやすい。
「や。」
ふと後ろから声がして、視界が奪われる。死んだように冷たい手と、聞き慣れた軽い声。
「冷たい。」
「そりゃ、1時間目からここでサボってるからね。教室でぬくぬくしてた君とはわけが違うのだよ。」
ふざけた、何かしらの博士のような話しぶりで彼が笑うのが、背中越しに伝わった。教室で暖まった俺の顔に触れて、彼の手は少しずつ温んできている。
目を覆う彼の手を掴んで、ほんの少し下に下げた。ダボついた彼のカーディガンの袖が鼻を覆って、柔らかな柔軟剤と石鹸の匂いが心の奥をくすぐる。軽やかで少し甘いような匂いに、沈んでいた心が、まるで糸でもかかったかのように引き上げられた。
「……あの〜……ちょっと恥ずかしいかな〜……とか……」
おずおずと彼が言うので、正気に戻った。寒さで冷えていた耳の端に熱が籠もる。きっと、熱くなった俺の耳と、冷え切った彼の耳は同じ色をしている。
「……俺もサボろ。」
顔を覆っていた手を解いて、そのまま軽く引いていく。いつもの定位置、程よく日の差すフェンスの傍で、温もりを分け合うように、終業のチャイムが鳴るまでずっと寄り添っていた。
テーマ:心の深呼吸
11/28/2025, 7:40:29 AM