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『安らかな瞳』

都会の喧騒を離れた丘の上、老いた彫刻家は最後の手仕事を終えようとしていた。

​彼が彫っていたのは、名もなき聖女の石像だ。
しかし、どうしても瞳だけが完成しない。慈愛や悲しみ、どんな感情を込めても、石の目はどこか冷たく空虚に映った。

​ある夕暮れ、一羽の傷ついた小鳥が工房の窓辺に舞い降りた。
彫刻家はそっと手を差し伸べ、その小さな命が静かに尽きるまで、ただ温もりを分け与えた。小鳥が最期に見せた、すべてを委ねるような、深く静かな眼差し。

​「これだ」

​彼は震える手でノミを振るった。
完成した石像の瞳には、喜びも悲しみも超越した、圧倒的なまでの安らぎが宿っていた。

​翌朝、村人が工房を訪れると、そこには完成した石像と、その足元で眠るように息を引き取った彫刻家の姿があった。

石像の安らかな瞳は、まるで彼の魂を優しく見守っているかのようだった。

3/14/2026, 10:09:57 AM