作家志望の高校生

Open App

「今日もやってんの?マジメだねぇ。」
背後から突然、首に腕が回される。若干間延びしたような声で語りかけてくるのは、同じ緑化委員の先輩だ。
「……先輩が不真面目すぎるんです。昨日また水やりサボったでしょう。」
じとりと睨むように見上げると、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。不真面目で見るからに軽薄そうな彼は、堅物と言われがちな自分とは確実に合わないタイプの人類だろう。それでもこうして話してしまうのは、コロコロ変わる表情が案外嫌いじゃないからだろうか。
「耳が痛いねぇ。……ん〜……じゃあ、委員の仕事頑張ってるマジメな後輩くんに、先輩がご褒美あげよっか。」
その言葉に、少しだけ興味を引かれた。草抜きの手を止め、軍手を外して立ち上がる。
「……何くれるんですか。」
先輩はまた猫のように目を細めて笑った。俺はこの表情を知っている。何かしらを企んでいるような顔だ。
「んふ、まだ秘密ー。もうちょっとしたらね。」
俺は釈然としないまま、やたら楽しそうに歩いていった先輩を見送った。
それから1週間後。そんな会話も脳の隅に追いやられて忘れかけた頃。先輩が久しぶりに俺の前に姿を現した。相変わらず猫のような笑みを湛え、後ろ手に何かを隠すようにして。
「おひさ〜。前言ったご褒美、用意してきたよ。」
そう言って彼が俺の眼前に突き付けたのは、一輪のコスモスだった。花自体も大輪で、花弁もよく揃っている。大切に育てられたのが分かる一輪だ。
「……どうしたんですか、これ?」
思わず俺が尋ねると、先輩はなぜか得意げに言った。
「それねぇ、僕が育てたんだよ。」
ぽかんとしてしまった。先輩が、この花を?あまりに似合わないような気がして、花と先輩の顔の間を俺の視線が何度も行き来する。
「あ、信じてないでしょ〜!?もー、酷いなぁ。ほら、ついてきてよ。こっち。」
先輩に手を引かれるまま歩いて辿り着いたのは、学校の裏の花壇。そこには、俺の手にあるものと変わらない、丁寧に育てられただろうコスモスが狂い咲きだった。
「先輩、これ……」
俺はどうやら、先輩のことを少し誤解していたらしい。委員の活動に対して不真面目そうな態度をしながら、その実誰より花に熱心だったのだ。
そのことを伝えるきっかけになった一輪のコスモスは、俺の手の中で誇らしげに日光を受けていた。

テーマ:一輪のコスモス

10/11/2025, 7:22:59 AM