「桜流し」
ちぃちゃん。せいちゃん。そして僕。
僕らはずぅっと仲良しだよ。
桜の花が晴れた空を飾る頃。
とある公園で小さな子供が楽しそうに笑っていた。
3人の子供の横にはお父さんとお母さん。
恐らく一つの家族がお花見をしているのだろう。
少女の声が響く。
「晴流也!タッチ!」
「あっ…――う..うえーん」
晴流也と呼ばれた少年が泣いた。
「おいおい。こんなんで普通泣くかよ。」
晴流也と呼ばれた少年を馬鹿にするような他の少年の声がした。
「――ちぃちゃんも。せいちゃんも、もう嫌い!!」
晴流也が言った。
「「――は?」」
2人の声が重なった。
その瞬間2人の子供が晴流也にかけよった。
「ご…ごめんね」
少女と少年が申し訳なさそうに言った。
「――」
しばらく沈黙が続いた。
「――で?本当は?」
晴流也ではない少年が言った。
「――。嘘…。ちぃちゃんもせいちゃんも――大好き。」
晴流也が言った。
すると申し訳なさそうにしてたのが嘘のように2人の顔がいたずらっ子のようになった。
「ふーん」
照れたような少年と少女。
そのようすを少し離れた場所で両親がみていた。
「ふふっ。本当にかわいいわね。私たちの子たち」
「そうだね。ママ。」
「ね。パパ」
おしどり夫婦とはこのことだ。
とある小さな町の仲良し家族。桜坂家。
2人のおしどり夫婦と。
長男の晴佳(せいか)
長女の千晴(ちはる)
次男の晴流也(はれるや)
仲良しの五人家族。
町では顔が知れ渡っている。
ある日。
桜が空と大地を埋め尽くす頃小学校が始まった。
晴流也は入学。
千晴は2年生。
晴佳は3年生。
はじめての学校は晴流也にとって少し怖いもので、
玄関の前で体よりも大きく見えるランドセルを背負い
泣き出していた。
「晴流也。学校いかないの?」
お母さんが言った。
「――。だって学校誰もいないもん。」
泣き声混じりに言った。
お母さんはすっかり困ってしまった。
すると家の中から千晴と晴佳がランドセルを背負いやってきた。
「晴流也。行くぞ。」
「せいちゃん?」
「晴流也。相変わらず遅いなぁ。遅刻しちゃうよー」
「ちぃちゃん?」
「晴流也。んっ」
晴佳が小さな手を差し出した。
「うんっ」
晴流也が手を握った。
「ずるいっ。私も!」さ
千晴が晴佳のもう片方の手を握った。
「もう仕方ねぇなぁ。晴流也。千晴行くぞ。」
「うんっ」
そんな日常が続いた。
晴流也が中学3年生になったある春。
両親が死んだ。
「怪物」
この世界に蔓延る生き物。
人間離れした容姿で生き物を殺してまわる。
そんな怪物に両親は殺された。
両親が死んだ日。
空に浮かんだ月を見つめながら。
2人が家に帰ってこないと3人で話していた。
すると手紙が届いた。
『桜坂ご夫妻。死亡。』
少し大きく書かれた文字は僕らの目を釘付けにした。
「は?」
3人の声が重なった。
死亡。と書いた文のしたには
『怪物による襲撃により。男性頭を潰され即死。
女性足を切られ出血多量で死亡。
ご子息が望むのならば「愛奪還組」に入隊可能。
入隊希望の際は市役所にてご連絡をお入れください』
冷たい文だった。
それでも僕らの心を冷たく叩くのにはちょうどよかった。
沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは――千晴だった。
「私。愛奪還組に入隊したい。」
「――なに行ってんだ。お前。」
「だってこのまま怪物に大切なものを奪われるのはや。泣き寝入りなんてしたくないっ!」
「――ちぃちゃん。」
千晴と晴流也の目には涙が浮かんだ。
「なぁ千晴。」
優しく子をなだめるような声で晴佳が言った。
「お前は俺が死んでもいいか?」
「な、なに?急に」
晴佳は千晴の目をじっとみた。
千晴は目をそらして言った。
「そりゃ。――やだよ。」
「そうか。なぁ千晴。俺もお前と同じだ。」
「っ――」
千晴は幼い子供のように涙を目一杯にためた。
「千晴。頼む。危険なことはするな。 な?」
「――うん。せいちゃんも晴流也も、ごめん。」
千晴が「ごめん。」といった瞬間。
僕ら3人は一気に安堵した。
そして、両親が死んだという事実に肩を揺らし、肩を並べて泣きじゃくった。
この瞬間だけは僕らは小さかったあの頃に戻った気がした。
「ねぇ。晴流也。」
「どーしたの?ちぃちゃん。」
何週間かたった日の昼。その日は土曜日で、学校が休みだった。
晴佳はバスケ部で練習に行っているため、今日は2人きりだ。
「晴流也はせいちゃんのこと好き?」
「ん?だいすきだよ。」
「へへ私も。――ねぇ。
私と晴流也、せいちゃんはずぅっと仲良しだよね。」
「そうだね。せいちゃんとちぃちゃん。そして僕。
僕らはずぅっと仲良しだよ。」
「へへ。ありがとっ」
「――?なにが?」
「別にー?」
今思えばこの日の千晴は怖かったんだろう。
親が死んで、一人になってしまうとなってしまうと思ったのだろう。
大丈夫だよ。僕らは一人じゃないよ。
僕ら3人はその事実を確めあいたかったんだ。
僕が高校1年生になった春の日。
桜が雨に濡れていた。
大雨が桜を打ち、華やかさを奪っていく。
どこか桜が泣いているようだった。
午後五時頃。
手紙が届いた。
冷えた空気に身を震わせながら震えた手でポストから手紙を取り出した。
数年前のあの日のように桜が咲いていた。
あぁ。嫌な予感は当たるらしい。
手紙を封筒から取り出すとあの日の記憶と。
――千晴との記憶を思い出した。
『桜坂千晴。死亡。』
「な、なんで。」
「晴流也?どうしたんだ?」
「せいちゃん。ちぃちゃんが…」
「――は?」
死亡の文字のしたには文章が添えられていた。
『怪物による襲撃により。桜坂千晴死亡。
多数の攻撃により身体は一部のみ回収。その為遺骨の受け取りは困難である。家族の死亡のため「愛奪還組」――』
あの日のような冷たい文章。
まだちぃちゃんは17歳だ。
まだまだこれからなのに。
なにより。
ずぅっと一緒だって言ったのに。
どうして。
「――千晴?」
晴佳が言った。
「――ちぃちゃん?」
僕らは一体なんのために生きてきたんだ。
3人で笑えるようになんとか生きてきたんだ。
なのになんでみんな―死んじゃうの?
なんで――。
「――也。――晴流也!」
晴佳の声で我に帰った。
「――せいちゃん?」
「大丈夫か?」
「う、うん。」
「本当か?」
「――。」
「――晴流也。大丈夫だ。大丈夫。俺がいる。」
その時僕の目から大きな雨粒が落ちていった。
海が目の前に広がっては消えて。
そしてまたできた。
そしてようやく気がついたんだ。
せいちゃんの目から涙が溢れていることに。
「――せいちゃん。」
「――晴流也。」
「僕ら3人は――ずぅっと仲良しだよね。」
「あぁ。俺らはずっと――」
その時のことだった。
ドンっ!!
鈍い音が家の中に響いた。
「な、なに?」
僕らが困惑していると衝撃に耐えられなかったのだろう。
僕らの家が半分潰れてしまったのだ。
下半分が。とかではない。
綺麗に家が縦に半分分かれたのだ。
僕らは運良く潰れていないもう片方にいたため助かった。潰れた方にいたらと思うと頭が恐怖で埋まった。
「あれ?ここにも人間がいるなぁ。」
そう言って現れたのは人間、魚、牛、虫を混ぜたようなあべこべな容姿の『怪物』
「――せいちゃん。あれ怪物だよ。」
「――あぁ。」
怪物が虫を払うように手を振ったとき。
手の延長線上にあった建物が綺麗に切れて崩壊した。
「さぁてと。どっちから殺そうか。
怪物の手が僕の方へ向いた。
ゆったりとした動作でいつもなら逃げられたかもしれない。でも無理だった。
心が追い付かないかった。
頭を恐怖が支配する。
チラリとせいちゃんの方をみる。
唇を強く噛み締めている。足は震え、歯はわずかに擦れあい、汗が首筋を伝う。
あぁ。そうか。僕らは死ぬのか。
目の前が真っ暗になった。
でも叶うことなら。せいちゃんだけでも生きられますように。
怪物が手を降った。
僕は目をそっと閉じた。
でもいくら待っても、死はこなかった。
目を開ける。そこには
「――せいちゃん?」
せいちゃんが立っていた。
「――」
せいちゃんが床に力なく倒れる。
晴流也は霞んだ目を見開き、そばによる。
「――せいちゃん。せいちゃんっ」
怪物が独り言のように囁いた。
「は?庇った?なんで?なんで?あぁ。そうか。そうなのか。愛しているからか。そうなんだろう?
愛とは殺す以外にもあるのか?」
そういって怪物は町の外へ消えていった。
「――せいちゃん。」
「――。晴流也?」
せいちゃんの腹には大きな切り傷があった。
もう。助からないだろう。
「せいちゃん。せいちゃんっ!」
「晴流也。」
「せいちゃんっ。」
「晴流也っ!聞いてくれ。」
「っ――。」
「なぁ。晴流也。千晴と俺は先に母さんたちに会いに行くよ。
晴流也の世界はいつか。いつかきっと晴れるから。
どうか。どうにか。
前を向いて。
胸を張って。
醜くてもいい。ダサくたっていいさ。
…笑ってくれ。 な?」
「せいちゃん…」
せいちゃんが「な?」というときは相手を子供扱いしてるとき。なだめるように優しく言い聞かせるとき。
ずっと、ずっと変わらない。
「――せいちゃんは変わらないなぁ。」
「ふんっ。ぬかせ。 格好いい男になれよ。」
「うん。もちろん」
僕は笑った。雨と涙でぐちゃぐちゃになりながら。
せいちゃんの目が安心したようにそっと閉じられ開かなくなるまで。
「すみません。桜坂晴流也と申します。愛奪還組に
入隊したいのですが。」
『桜坂さんですね。お送りする住所にてお待ちしております。』
ねぇ。ちぃちゃん。せいちゃん。
僕は。いや「俺」は格好いい男になるから。
見ててよ。
笑って生きてみせるから。
そしていつか。そっちに行くから。
待っててね。
次みんなに逢えるときまで俺は強くあるから。
でもねせいちゃん。
僕にとっての「格好いい」はせいちゃんだから。
愛奪還組に入隊してせいちゃんみたいに格好つけさせて。
そしてこれから出会う人たちと。
俺の家族が笑えるように。
「俺とみんなの世界が晴れるといいなぁ」
4/18/2026, 1:41:56 PM