シトシトと、屋根の上で雫が弾ける音が辺りに響く。
雨粒が葉に、地面に、窓に当たって弾ける音。
雨で濡れて香り経つ独特の香り。
虫や鳥のざわめきが鳴りをひそめた静寂。
突然の雨に足止めをされ、手持ち無沙汰に雨宿りをするしかない私は、案外雨の日が嫌いではない。
この辺りは人通りも少ないから、目を瞑り雨の世界を堪能しよう、そう思った時。
チリン
不自然で、それでいて耳に馴染むいやに綺麗な音色の鈴の音が脳裏に響く。
ハッとして辺りを見渡すと、先程まで広がっていた景色と違うことに気がつく。
降りしきる雨はそのままに、どんよりとした雨雲が消え去っている。
眼前には晴々とした空が広がり、夕陽が差し込む。雨に濡れた世界がオレンジ色にキラリと輝いていて、思わず見惚れるほどに目を奪われ、そして、
「狐の、嫁入り」
ーーーーチリン
思わず零れ落ちた言葉は、どこからか響いた鈴の音と共に雨に溶けていく。
非日常的な雰囲気を感じながらも、不思議と恐怖はない。
ねぇ、お天道様に見守られたお嫁さん。
幸せになってね、なんて。
『あいまいな空』
#11
6/14/2024, 12:07:24 PM