星乃 砂

Open App

【やりたいこと】

 [5/19 恋物語
 [5/26 降り止まない雨
 [5/27 月に願いを
 [5/28 天国と地獄
 [5/30 ごめんね
 [6/5 狭い部屋
 [6/7 最悪
 [6/9 岐路
 [6/10 朝日の温もり
           続編

登場人物

 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
    玲央     (れお)
    真央     (まお)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 椎名友子  (しいなともこ)


若宮サイクルの仕事にもだいぶ慣れてきて、顔馴染みのお客さんもできてきた。
「おはよう、サヨちゃん」
「おはようございます、源三さん今日は、どうされましたか?」
「昨日一杯飲んだ帰りにフラついて土手から落ちちまってよ、ハンドルが横向いちまったんだ」
「あー、これは軸が曲がっちゃってますね。とりあえず調整しておきますけど、運転しにくかったら交換しますのでまた来て下さい」
「わかった」
「今回は調整だけなのでお金は結構です」
「良いのかい、後で親っさんに怒られないかい?」
「大丈夫です、今は居ませんから」
「ありがとう、またな」
話しを聞いていた園子が奥から出てきた。
「サヨは商売に、向いてるかもね。今みたいなサービスが次に繋がるんだよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「ところで、もうすぐクリスマスだけど、何か欲しい物ないのかい?」
「私は、なにもいりません。でも弟と妹には普通のクリスマスをしてあげたい」
「サヨだってまだ子供なんだから何でもひとりでやろうとしないで周りを頼りなさいよ」
「園子さんには沢山助けて頂いてます、私が頑張らなくては申し訳ありません」
「ほら、それよ。もっと肩の力抜いてリラックスよ」
「はい」
「それと、イブの夜にサヨの家でパーティしたいんだけど、どうかな?」
「私の家でですか?」
「アタシ達、子供がいないからイブに旦那とふたりじゃ、罰ゲームだからさ、仲間に入れてもらおうと思ってさ」
「わかりました、狭いですけどお待ちしてます」
 ーーそしてイブの夜ーー
「メリークリスマス、玲央君真央ちゃん、プレゼントだよ」
大吉と園子はふたりに自転車をプレゼントした。
「「ありがとう」」
「園子さん、ありがとうございます」
「いいんだよ、お客さんが買い替えで置いていったのをメンテナンスしたやつだから、気にしないでおくれ、それと、ケーキと、チキンの丸焼きだよ。みんなで食べよう」
弟達は大喜びでイブを楽しんだ。
そして、あっという間に正月がきた。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。園子さん」
「おめでとう。こちらこそよろしくね、サヨ」
新年の挨拶を交わし、勝負の年が始まった。玲央と真央は小学一年生に。そして、小夜子は中学を卒業して、弟達のためにも就職しなければならない。
「サヨは、高校には行かないのかい?」
「はい、就職します」
「そうかい、で、当てはあるのかい?」
「いいえ、これから探します」
「どんな仕事がやりたいんだい」
小夜子は思いを園子にぶつけてみた。
「私、自転車屋の仕事がしたいです」
「嬉しいこと言ってくれるね。でもうちではバイトを雇うのが精一杯で社員を雇う余裕はないのよ」
「そうですよね。大丈夫なんとかほかを探します」
「そこでなんだが、ちょっとアンタ」
園子に呼ばれて大吉が出てきた。
「田中の野郎がよ...」
「今度サヨの家の近くにサイクルショップ田中の2号店を出すんだって、それでね」
「田中の野郎がよ...」
「2号店の店長を探してるのよ、それでね」
「田中の野郎がよ...」
「誰かいないかって聞かれたのよ、それでね」
「田中の野郎によ...」
「サヨの事を話したのよ、そしたらね」
「田中の野郎がよ...」
「会って話しがしたいって言うんで」
「田中の野郎がよ...」
「もうすぐ来るって」
「私が店長ですか?」
その時ちょうど田中が店に入ってきた。
「アケオマコトヨロ」
「こちらこそ、田中さん。この子が金城小夜子ちゃんです」
「君が小夜子君か、修理の腕前がいいそうだな」
「私なんか、まだまだです」
「そこで、ワシが持ってきた自転車を修理してみてくれ」
外にはボロボロの自転車が置いてあった。
「これを修理するのですか?」
「やってみてくれ」
小夜子は自転車を丁寧に観察して考えていた。
「どうした、直せないのかな?」
「この自転車を治すにはいくつかの部品を交換しなくてはなりません。修理費も高額になります。でしたら、その修理費に少し足してこちらの自転車はいかがでしょうか」
「うん、なるほど商売上手だな。
店長の素質がありそうだ」
「よかったねサヨ」
「ただし、条件がある」
「条件ですか」
「店長となると、中卒では困る。従業員も付いてこないだろう」
小夜子は思った、やっぱり中卒では就職は無理なんだろうか。
「そこで、君には2号店で働きながら、夜学に通ってもらう。学費の半分はこちらで出そう。しっかりメカの勉強をしてくれ。そして、卒業したら2号店は君に任せよう」
「本当ですか、学費も半分出して頂けるのですか?」
「未来投資だよ」
「ありがとうございます」
「よかったねサヨ」
「はい」
こうして、小夜子の未来は大きく開けていった。

           つづく

6/11/2024, 7:20:40 AM