風待

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曇りガラスの奥の道
揺らりと揺れる黒い陰
漏れる街燈、光の前に
今夜も貴方は佇んでいる

「おかえりなさい」
毎晩零れる同じフレーズ

それでも貴方は何も返さず
ただ開けてくれと言わんばかりに
窓越しに強い視線を私に送る

とても律儀で優しい貴方
私の言葉を零す事無く
1つ残らず掬う貴方が
「ただいま」
一言無いわけがない

馬鹿をするのはお止めなさい
曇りガラスで濁りとも
本物見抜けぬうつけではない

戻らぬ貴方に成り済ますなら
声の一つも真似てみなさい
帰らぬ旦那に成り済ますなら
もっと上手に現れなさい

それでも私は見抜いてみせる
だってお前にはないのだから

私の愛する熱い視線も
愛の籠った優しい言葉も
生気の宿ったあの気配も

窓越しに見えるのは
影だけだとは思わないことね。

7/1/2024, 2:51:54 PM