「……寝てますね」
「…寝てるね」
七海たちがコンビニまで飲食物を買いに行ってるうちに、ジャンケンの勝者は眠ってしまったらしい。
細い両腕に顔を預けて、無防備に幼い寝顔を晒している。
「人に買いに行かせておいて、全く」
「くーくん、昨日任務から帰ってきたの夜中だったから仕方ないよ!!」
「灰原、声が大きいです」
「アッ」
ばちんと己の口を叩いたまま椋の顔を覗く灰原だったが、相変わらずうたた寝しているのを見て、ほっと両手をおろした。
「…なんか、こんな安心して寝てるくーくんの姿見れるの、ちょっと感慨深いね!」
「出会ったばかりの頃は、馴れ合うつもりはないという笑顔を貼り付けてるぐらいでしたからね」
「馴れ合いません、って言ってたのは七海の方じゃなかった?」
「…言ってません」
「えー?そうだったかなぁ」
灰原は声のボリュームを下げながら、椋の寝具になっている机の上に、買ってきたばかりのチョコレート菓子を1粒置く。
「何やってるんです」
「こうやっておかし置いといたら、おかしが出てくる良い夢見られるかなーって思って!」
生身ならまだしも、個包装されてほぼ匂いがしない状態では脳にも匂いが届かないだろう。
そう七海は思ったが、楽しそうに菓子を並べ続ける灰原の様子に、口ではなく自身が買った飴の袋を慎重に開けた。
「あっ、七海もくーくんにおいしい夢届けてくれる?」
「いえ、来曲の目が覚めるまでに、いくつ置けるかチャレンジしようと」
「ははっ!くーくん、起きたらお菓子だらけでびっくりしちゃうね!」
二人は笑いを殺しながら、古ぼけた茶色の机をカラフルに染め始めた。
椋は、未だ気持ち良さそうに眠っている。
【目が覚めるまでに】
8/3/2024, 2:48:41 PM