美佐野

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(※二次創作)(物憂げな空)


 どんよりとした灰色の雲が空を覆う。今にも雨が降りそうで、ここから快晴にはならないだろう。風はどこか生ぬるく、見上げても気分を晴らすことはない――牧場主ユカを除いては。
「あしたは雨かな♪きっと雨だな♪」
 足取りも軽やかに、ウキウキと。
「何しよっかな♪どこ行こっかな♪」
 ついつい妙ちきりんな替え歌も出てくるというもの。
 何せ雨の日は水遣りがいらない。たとえば少し前にブレアに教わった、刺繍糸で作る組み紐を作るのはどうだろう。色の組み合わせは千差万別、仕上がりの印象も変幻自在だ。
 ドウセツに教わった味噌汁をいくつか作るのも楽しそうだ。家の前の砂浜でよく拾える赤貝で貝汁を作ってプレゼントしていたら、他にも具になる食材を教えてもらったのだ。
「ジャックんとこ行って、映画借りてみようかな」
「やあ、楽しそうだね」
「そうなの、だって明日はあ……ジャック!?」
 ユカは文字通りその場に飛び上がった。今まさにジャックのことを考えていたら、まさか本人が来るなんて。数日前、雑貨屋が休みの日に彼の部屋で、映画を見た時は、疲れが溜まって寝落ちしてしまった。そのリベンジといこうではないか。
 一方、ジャックはどこか元気がなさそうだ。
「どうしたの?何があったの?」
「明日雨みたいだからさ。雨が降ると、お客さんは減るし、シンディは髪が爆発して不機嫌になるし、ちょっとね」
「ふうん」
 ユカにとっては雨の日は不意に貰った休暇なのだが、なるほど、人によって事情はいくらでも変わるものだ。と、ユカはいいことを閃いた。
「じゃあさ、私、明日お店に行くね。新しいプリンがつくれるようになったから、みんなにお土産も持って行けるし」
 それに、とユカは笑う。
「ジャックだって、少しは退屈が紛れるでしょ?ちょうど、作物の種を買い足したかったし」
 いよいよ空は暗くなり、ユカは対照的に軽やかに飛び跳ねる。

2/26/2024, 9:46:38 AM