夕立が空を覆って、街を眺めている。
大慌てで軒下に向かう人、余裕綽々に傘を掲げ歩く人、気にも留めず進む人。
夕立はそこに珍しいものを見つけた。
柵に囲まれた開けたコンクリートの上、
一人でたたずむ少年がいた。
彼の服はずぶ濡れで、その身体は震えていた
「こんな日に、なぜあんなところにいるのだろう」
その場所にこんなに長くいる人を、夕立は見たことがなかった。
少年はしきりに街を見つめては、首を振る。
顎に手を当てて考え込んだかと思うと、
次に頭を抱えて柵にぶつける。
「そうかわかったぞ、
あいつは死のうとしているんだ。
俺がいる季節は皆元気で、なかなか見れるもんじゃない、しばらく眺めてみよう」
足を挫く、爪を噛む、髪を掻きむしる。
頭を抱える。
いつしか夕立は、そんな彼の行動が雨に反応する人々のそれよりも、ずっとおもしろく見えるようになっていた。
そして、ついにその時は来た。
少年はボロボロの靴を脱ぎ、すっかり紫の唇に、大きく息を吸い込んだ。
柵を越えて、下を見つめ、飛んだ。
瞬間、少年を風が攫った。
緩やかな軌道を描き、ゆっくり街へと下ろされる。
少年は眼をぱちくりさせて、キョロキョロと見渡した。
「こんな面白いやつ、死んでちゃもったいない」
夕立はすっかり消え失せて、
空は赤音色の夕陽を灯した。
『たった一つの希望』
3/3/2023, 10:23:38 AM