真岡 入雲

Open App

【お題:やわらかな光 20241016】

目を開けるとそこはやわらかな光で満ち溢れていた。
暑さも寒さも感じず、ただ明るいと感じる空間に、私は独り立っている。
ここがどこなのか、自分が誰なのか、そんな事はどうでも良かった。
ただ私という魂が、ここが特別な空間で、自分が幾度も転生を繰り返してきた者であると言うことを記憶している。

「ご苦労さん」
「⋯⋯⋯⋯また、ですか?」
「いや、本番だよ」
「本番⋯⋯」

幾度も繰り返してきた生で、私という魂は様々なことを経験し、学んだ。
それは人の感情であったり、世界の理であったり、自然のバランスであったり、命の重みであったり、軽さであったりした。
そして、その生が終わる度にこの場所で、この人物と出会う。
交わす言葉は多くなく、労いの言葉を貰い、次の生の簡単な情報を与えられ、そして送り出される。
だが、今回は違うようだ。

「ゼロベースじゃなくて申し訳ないけど、はい、どうぞ受け取って」

渡されたのは、掌に乗る大きさの球体と赤い表紙の一冊の分厚い本。
球体は宙に浮いており、球体の周りに3つの小さな球体が寄り添うように浮かんでいる。
私という魂は、それを自分の目の高さに浮かべる。
よく見れば球体の半分は全てが水で覆われてり、その上空には大小様々な島が浮かんでいる。
もう半分は同じく水で覆われているが、水の中に4つの大陸と無数の小さな島があるのが見えた。

「これは⋯⋯」
「創造主が島を半分落としたんだ、実験だと言ってね。おかげで世界は混乱し酷い有様だ」
「元のように島を浮かすことはできないのですか?」
「無理だね」
「では、全て落とす事は?」
「それも無理だ、世界の理に反する」

神という存在が有る。
今、私という魂の前にいる、この人物も神の一人と言える。
ただし、この人物もまた与えられた役割をこなしているだけに過ぎない。
私のような魂に、世界を与えるという役割だ。

「理は全てこれに書かれていますか?」
「書かれてる。けれど消せない」
「⋯⋯承知しました」
「キミの前の守護者も頑張っていたんだけどね、頑張りすぎて消滅したよ。でもおかげで、世界はまだ続いている。よろしく頼むよ」
「はい」

私という魂の中に、ふわふわと浮く球体と赤い表紙の本が吸い込まれる。
本に書かれた世界の理が、私の中に刻み込まれ、そして唐突に理解する。
私という魂が、二度とこの人物に会うことは無いのだと言うことを。

「⋯⋯今まで、ありがとうございました」
「うん、見守っているからね」
「はい」

やわらかな光の中で、儚く微笑む者がひらひらと手を振り、私という魂を見送る。

世界を守る者を、守護者という。
創造主が決めた理と、己が決める理で与えられた世界を未来へと導く。
守護者は『磨かれた魂』が担う。
様々な生を経験し、様々な知識と記憶を身につけた、神に育てられた魂だ。
世界を守るために、創造主が作ったものを守るために、何者かの愉しみを守るために。

やわらかな光の中で儚く微笑む人物の姿が徐々に薄くなっていく。
私という魂に手を振り続けるその姿を、私は心に刻みこんだ。


━━━━━━━━━
(´-ι_-`) 春よりも冬の陽射しの方が優しいイメージがあるなぁ

10/17/2024, 1:07:19 AM