悪役令嬢

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『澄んだ瞳』

「おや、またやらかしてしまいました」

目の前の白い子犬を見つめる魔術師。
子犬の正体はなんと
執事のセバスチャンだった。

「魔術師!一体どういうことですの?」

「変身魔法を試していたのですが、どうやら
力の加減を誤ってしまったようです」

悪役令嬢は小さくなった
セバスチャンを優しく抱き上げた。

「セバスチャン、大丈夫ですか?」悪役令嬢が
心配そうに尋ねると、セバスチャンは
小さな尻尾を振って「くぅん」と鳴く。

「効果は半日から長くても三日ほど続くと思わ
れます。その間、彼の面倒をお願いしますね」

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穏やかな昼下がり、蝶やミツバチが飛び交う
庭園で悪役令嬢と仔狼セバスチャンは
追いかけっこや水遊びをして戯れていた。

「子どもの頃は今と瞳の色が違うのですね」

ダークブルーの澄んだ瞳を持つあどけない子犬
が、金色の瞳をした立派な狼に成長するの
だから実に不思議なものだ。

悪役令嬢が「あおーん!」と遠吠えをすると、
彼女に続いて小さなセバスチャンも口の形を
Aにして「アオーン!アオーン!」と鳴いた。

(嗚呼、なんて愛らしいのでしょう……)

「お嬢様、その子はどうしたのですか?」

「知人から預かって欲しいと頼まれましたの。
名前は……セバ太郎ですわ」

「なるほど!セバ太郎さん、
お腹は空いていませんか?」

ベッキーは小さな茶碗にミルクを注ぎ、
子犬の前に置いた。すると上品に、
しかし少し不器用にミルクを飲み始める。

「あ、飲んでます!かわいい……」
「あら、口の周りが汚れてますわね」

子犬の可愛さにうっとりするベッキーと、
ハンカチで子犬の口元を拭う悪役令嬢。

夜になり、悪役令嬢は自室のベッドに
セバスチャンを招き入れた。

「今宵は特別ですわ。一緒に寝ましょう」

悪役令嬢はセバスチャンを抱き上げ、寝具に
潜り込む。小さくなったセバスチャンは、
彼女の胸元に収まるようにして丸くなった。

「おやすみなさい、セバスチャン」

セバスチャンは小さく「くぅん」と鳴き、
彼女の手を舐める。その仕草に悪役令嬢は
微笑み、彼を抱きしめたまま眠りについた。

翌朝、悪役令嬢が目を覚ますと、
ベッドの上には元の姿に戻った
セバスチャンが横たわっていた。

「おはようございます、主」
「まあ、セバスチャン。元に戻れたのですね」

ホッとする反面、もう少しだけ子犬の
セバスチャンと過ごしたかった悪役令嬢。
何はともあれ、子犬騒動は無事
収束したのであった。

7/30/2024, 8:00:26 PM