【忘れられない、いつまでも。】
シャーデンフロイデ(注:1)なんて、味わうハズが無いと思ってた。
私は優等生で、いつだってみんなの模範となるようなことをしてきた。困っている人が居たら見返りを求めず助けたし、みんなが嫌がることも嫌な顔ひとつせず進んでやった。勿論、人の不幸を笑うことなんてしなかった。
それが今、壊れた。
目の前には、血だらけになって倒れたアイツがいる。私のことを馬鹿にしてきたアイツ。良い子を笑ったアイツ。中学生のくせにタバコを吸ってるアイツ。悪人のアイツ。死んでも誰も困らないアイツ。
携帯を見ながら自転車を漕いで、車に轢かれたアイツ。
アイツを轢いた車は、すぐにどこかへ消えていった。私は救急車も、警察も呼ばなかった。だって、もう頭無いし。アイツを轢いただけで人生が台無しになるなんて可哀想だし。
ここは田舎だから、車の通りなんて数日に一本しか無い。だから、言わなくてもバレない。どうせこのことも有耶無耶になって、アイツを轢いた可哀想な人も助かる。
それに、アイツが死んでも誰も困らないから。
私もすぐに家に帰った。
何も無かった様に自分の部屋に入って、笑った。笑いが止まらなかった。だって、悪人に罰が下ったんだもん。自業自得なんだもん。それは素晴らしく良い事で、快感だった。
初めてのシャーデンフロイデは、私に極上の感情を与えた。
注:1シャーデンフロイデ・・・・・・ドイツ語で、「人の不幸は蜜の味」という意味。
5/9/2023, 12:24:48 PM