「夜景」
ここは山の展望台。
昔は恋人たちがここに集まり、夜景を背景にデートをしたり、あるいは告白・プロポーズなんかもしていたらしい。
きっと彼らにとっては甘い、もしくはほろ苦い思い出の場所だったのだろう。
でも、今は誰もいない。
もっと美しい夜景の見られる場所がたくさんできて、わざわざここに足を運ぶ人がいなくなってしまったのだ。
強いて言うなら、変な噂をきっかけに心霊スポットとして時々肝試しにくる学生が来るくらいで、ただ純粋にこの景色を楽しむためにここにいるのは私くらいのものだ。
私はあの夜景に、夜景の一部になりたかった。
暖かい家の灯りも、勤勉な会社員や学生のいるオフィスや学校も、カラフルな繁華街も、どこも私の居場所ではなかった。
私はどこにも行けなかった。
暗いところに閉じこもり、人を避け、人に避けられ、誰にも、街にも愛されなかった。
綺麗な夜景だ。とても、綺麗な。
でも、あそこは私の居場所じゃない。
もっと、もっと高くへ行こう。
山に登る。静寂が耳を貫く。光はない。
だんだん心も静かに、しかしどこかで高揚している。
疲れているはずなのに、体は軽くなっていく。
今なら、どこかに飛んでいけそうだ。
夜の街よりもずっと明るく、高いところへ。
一歩踏み出せばきっと行ける。
天国か、それとも地獄か。
私はずっと下に見える夜景に、一歩踏み出した。
最後に見た星空と夜の街並みは、とてもとても輝いて、なぜだか涙で滲んでいました。
これで私も光になれるのかな。
9/18/2024, 8:06:59 PM