作家志望の高校生

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「お、来たの?やっほ。」
カラリと控えめな音を立てて病室に入ってきた友人に、軽く手を振る。心配です、なんてオーラが前面に漂う子犬のような瞳が、俺を真っ直ぐ射抜いた。
「ん……今日は体調大丈夫?昨日、また夜中急変したって聞いたけど……」
「あー、あれ?平気平気。ちょっと調子乗って夕飯食いすぎたわ。」
へらりと軽く笑って見せれば、彼はほっとしたような溜息を零して柔らかく笑った。
ベッドサイドの小さな机に、品のいい控えめな花束が新しく飾られる。少し萎れてしまった以前の物は、彼がそっと新聞紙に包んでいた。
「そっか。それなら……よかった。今日はクッキー持ってきたんだ。君が好きだったやつ。」
おずおずと目の前に差し出されたクッキーは、よく彼と2人で食べたものだった。特段好きだった記憶もないが、彼から見ると、きっと好きそうに見えているのだろう。
「マジ?さんきゅ。一緒に食おうぜ。」
受け取った箱の中から数枚を適当に取り出して、押し付けるように彼に渡す。彼の顔が小さく綻んだのを、俺は見逃さなかった。このクッキーが好きなのは、俺じゃなくて彼の方。俺が好きなのは、このクッキーを食べる彼の、子供っぽいような緩い笑顔だった。
サクサクと、しばらく2人して無言でクッキーを齧る。病室の外には、冬とはいえまだ少し青さを残した葉が茂っていた。
「……治るんだよね?」
ふと、また不安そうな顔をした彼がぽつりと問いかける。語尾は小さく震えていて、心なしか瞳も潤んで見えた。
「大丈夫だって。ほら、なんかあんじゃん?『この木の葉っぱが無くなったら私は死にます』みたいなやつ。こんだけ葉ぁありゃ平気だろ。」
茶化すように笑ってやれば、彼の顔に浮かんだ憂色もすっかり拭われた。
本当は、俺は知っている。俺の病気にもう治る見込みが無いのも、今週中に強い強い木枯らしが吹くのも。
昨日だって、別に夕飯は食べ過ぎていない。寧ろ、本来食べるべき量さえ、体が受け付けなくなってきた。
それでも、俺はずっと笑い続ける。すっかり痩せて背骨の浮いてきた体も、ずっと痛む頭も隠して。この心配性な友人の顔を、せめてもう少しだけでも曇らせないように。
僅かに開けられた窓の隙間から、木枯らしの気配を孕んだ冷たい風が吹き込んで、淡いレースのカーテンを揺らしていた。

テーマ:木枯らし

1/18/2026, 7:14:43 AM