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あなたとわたし

 あなたが指先を鍵盤の上で踊らせている時、わたしはそれを左斜め後ろから見ている。楽しげに弾み、時にしっとりと沈み、あるいは微笑みのような柔らかさをたたえる。単音も和音も、短調でも長調でも、あなたは全ての音を等しく愛おしげに奏でる。まるで全て、その指先から生まれ出た我が子のように。わたしの役目は、彼らをあなたの指先から旅立たせることだ。つっかえることなく一人一人が宙を漂うには、わたしの手が必要だ。

 わたしがキッチンに立っている時、あなたはそれを右斜め後ろから見ている。わたしが何を切っているのか、何を煮込んでいるのか、何を混ぜているのか。指先を大事にしなければならないあなたは、わたしを少しも手伝えないことにはがゆさを覚えてつい手を出そうとする。わたしはそれをすかさず止めて、ゆっくりと首を振る。残念そうなあなたは、しかしそこを離れずわたしが全ての工程を終えるのを待っている。あなたの役目は、わたしがつつがなくキッチンを離れるのを見届けることだ。美味しい料理の完成には、あなたの瞳が必要だ。

11/7/2022, 2:41:57 PM