いろ

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【遠くの空へ】

 真っ赤な風船が、抜けるように青い空に浮かんでいる。どこかの子供が手を離してしまったのだろうか、たった一つだけぽっかりと。
 青空をゆっくりと、横一文字に飛んでいく風船。河川敷に仰向けに寝転がっていた僕は、思わずそれに手を伸ばした。
 人差し指と親指の間にぴたりと収まった風船は、けれどすぐに風に流されて、僕の手の中から抜け出してしまう。ああ、いったいあの風船は、どこまで旅をするのだろうか。
(君のところまで、届けば良いのに)
 ネットワークもろくろく整っていない開発途上国へと、子供の教育の普及のためにと旅立っていった君。空港の保安検査場の前、軽やかに手を振った君の笑顔を、ふと思い出した。
 果たして今も、君は僕の知らない空の下で、元気に過ごしているのだろうか。
(どうか君の人生が、幸いに満ちたものでありますように)
 餞別にと最後に贈ったストールの、君が好きだと言っていた鮮やかな椿の花の刺繍を思い浮かべながら、遠くの空へとどこまでも飛んでいく風船にひそやかな祈りを託した。

4/12/2023, 11:47:58 AM