「 」
そう呟いた。
確かに、そう言ったはずなのだけれど。
耳鳴りが邪魔で、自分自身の耳にははっきりと聞こえなかった。
「いつの間に、もうこんな暑くなってる」
日差しが直接当たる。汗が流れる。
そして、風鈴の音が鳴る。まだ微かに風が吹く季節だ。
「蝉もうるさいし、トンボも無邪気に飛んでる」
虫は……動物は、植物というのは、どれもが無邪気なもんだ。私とは、静かに泣く君とは違う。
静かで無邪気な心を持っている。
「だから、だからさ」
影で泣いている、君に向き直す。
もう一度、さっき私には聞こえなかった言葉を。
「ただいま、夏。」
微かに強くなった日差しが。
微かに鳴った風鈴が。
微かに強くなった虫の声が。
あの時止まったままの「夏」を、思い出させてくれた。
お題 : ただいま、夏。
8/4/2025, 1:19:57 PM