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あいつが何考えてんのかなんて、全然わかんねぇ。
大体なに?あいつ正論大好きだったじゃん。
笑っちゃうよな。大量殺人に、親殺し。ありえねぇだろ。
俺に散々正論垂れといて自分の事は棚に上げんのか?…クソ傑。

傑の部屋の前に立ち、ドアノブを捻るや否や、頭の中を駆け巡る様々な思考を掻き消すように、一気にドアを蹴破った。

───悟。人の部屋に入る時はノックしろって、いつも言ってるじゃないか。

うるせぇな。俺に物申すんじゃねぇよ。

勝手に脳裏を過る声に、心の中でそう呟くと、ズカズカと土足で部屋に入る。
ぐるっと部屋を見渡すと、そこは何一つ変わりなくて、流し台には、その日の朝飲んだであろうコーヒーカップが洗われず置いてあった。

水が半分ほど入れられたそのカップを見下ろすと、無感情で冷めた自分の顔が映し出され、それは余りにも滑稽だった。

───悟。術師は非術師を守るためにある。

あ?その守る対象を皆殺しにしたのは誰だよ。

またもや頭の中で正論を垂れる傑の声が流れてきて、心の中がどんどんカサカサになっていくのがわかった。

ぐらぐらと滾る感情の昂りが抑えきれず、コーヒーカップを壁に投げつけると、ガン!という音と共にカップは粉々に砕け散る。

それをガチャリと踏みつけ、くるりと踵を返すと、机の上には悟、硝子、傑と3人仲良く並んでいる写真が目に入った。

律儀に写真立てに入れてあるそれを手に取ると、またもや傑は喋り出す。

───悟、一人称"俺"はやめた方がいい。"私"、せめて"僕"にしな。

…うるせぇな。

今度は心の中に留めておく事が出来ず、小さな声でそう呟くと、それを思いっきり窓に向かって投げつけた。

窓はパラパラと小さな粉を撒き散らしながら、衝撃に耐えきれず割れている。写真立てを拾い上げると、傑の顔の部分に大きな1本の亀裂が入っていた。

───悟。

うるせぇな。

────悟。

うるせぇ。

─────悟。

「うるせぇんだよ!!クソが!」

何度も何度も頭の中に流れる傑の声に、気付けば、悟は我を忘れて部屋の中の全てを破壊していた。破壊しなければ、2人でこの部屋で過ごしたまざまざとした記憶が、溢れ出して、嫌でも現実を突きつけられる。それに耐えられる自信はなかった。

上下に肩が揺れ、体は小刻みに震えている。

アッハ!アハハハ!

込み上げてくる寂しさ、悔しさ、切なさ、傑のいない現実を笑いに乗せて誤魔化すと、足早に部屋を後にした。


12/19/2023, 10:28:21 PM