光合成

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『あなたに届けたい』

今から10年も前のこと。
当時の僕はまだ高校生で大人と子供の狭間にいた。
分からないことが多すぎて、納得いかないことが多すぎた。この世界の全てを恨んでいた。

最後の冬休みに、僕は君と出会った。
あの頃の自分は受験勉強にイラついて、親との考えの違いにイラついて、冬の寒さにイラついていた。
どうにもならないことなんて分かっていたけれど、それでも僕は何も上手くいかない人生に苦しんでいた。

出会った時の君を僕は好きじゃなかった。
鈍感で、平和ボケしてて、僕の苦しさを君は軽んじてさえいるように感じた。
何も不安なんてないような顔して笑っていた君が心底嫌いで、心底羨ましかった。
大丈夫、となんの根拠もなくへらりと笑う君に僕はなりたかった。
幼かったんだ。なんとも未熟で、この世界こと何一つわかっちゃいなかったんだ。

僕は息がしづらくなったら海に行く。電車に揺られて、車窓を流れる景色の変化をぼんやりと感じ取る。どこまでも広がる海のその波際に君はいつも立っていた。
僕が海に行くと、君はいつもいた。

冬休み最後の日、僕が海に行くと君は波の狭間に立っていた。
そしていつものようにヘラりと笑って僕に何かを手渡した。それは小さな貝殻だった。

それが彼女との最後だった。
次の日、海に行っても君はいなかった。
それ以来、君とは二度と会えなくなった。
名前も知らない、どこの誰かも分からない。
顔と声しか知らない。遠くへ行った君。
僕はこの貝殻を君に届けなきゃいけないのに。
僕に渡した理由を聞かなきゃいけないのに。
もう君には届かない。

2026.01.30
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1/30/2026, 10:38:40 AM