幼い頃の記憶。
家族で旅行に行くときは、いつも夜遅くに出発だった。
父が現地まで夜通し運転して、母と私は後ろの座席で眠っていた。
眠っている間に到着…というのが両親の予定だったけれど、幼い私は深夜に出掛けるという非日常に心躍らせて、車が走り出しても眠ろうとはしなかった。
それでも、夜中に騒いではいけないという意識だけはあった。
隣で眠る母の邪魔をしないように、運転に集中する父の邪魔をしないように、窓にかけられたカーテンをそっとめくって、夜の街を眺めた。
昼間とは打って変わって車通りの少ない道、街灯だけが光っていた。
あの頃は夜更かししている人が少なくて、明かりの点いた家はぽつりぽつりとしか無かった…気がする。
それから少しだけ眠って、次に高速道路の単調なライトに目が覚めるのだ。
規則正しく同じ距離で等間隔に照らしてくる明かりにさえ、「ああ、遠くに来たんだな」と楽しさを募らせていた。
あの頃に戻りたい、とは言わないけれど。
あの頃の心を取り戻したい、とは思う。
『きらめく街並み』
12/5/2025, 3:02:12 PM