こたつと一体になってテレビをボーッと見ていた。
外は風が吹き荒れて雪が窓に打ち付けられている。
猫が足元でぐるぐると喉を鳴らして、時計がコチコチとゆっくり時を進める。
騒がしいのは窓の外とテレビの中だけ。
家という隔絶された空間は安全だ。
心がかき乱されることも起きないし、他人が土足で上がってくることもそうそうない。
これが幸せなんだろうな…
猫がこたつからぬるりと出てきて、体をこすりつけてきた。
ふわふわの感触を頬で感じながら、うとうとと意識を手放す。
夢の中でも同じようにこたつにくるまっていた。
違うのは彼女がいたことだ。
ドラマを見ながら涙を流している。
懐かしくて見つめていると、恥ずかしくなったのか
「こっち見ないでよ」と鼻声でみかんを投げつけてきた。
僕は笑いながら近くにあったティッシュ箱を彼女に渡して、聞いた。
「家族もの?」
彼女は家族の愛情をテーマにした物語にめっぽう弱かった。
「うんまあ。」
鼻を噛みながら答える。
主人公が夢を叶えるために家出したが、悪いやつに騙されて借金をかかえ途方に暮れていたところで、家族が助けにきたシーンらしい。
「家族っていいねえ。」
彼女がこちらを見る。
僕はつい目を逸らした。
彼女の結婚願望が強いことは十分分かっていた。
年齢の問題もあるだろうし、周りも結婚する人が増えてきて焦っているのも知っている。
ただ、僕は責任を持って家族を作る自信がなかった。
もともと人との付き合いは嫌いで自由に生きたかったし、誰かの人生の責任を持つことが僕には重すぎた。
彼女のことは愛しているが、期待に応えられないのも辛かった。
「晩ごはん何がいい?」
彼女は重くなりかけた空気を取り払うように立ち上がった。
「今日は豚カツの気分かな」
僕もそれに合わせて明るい調子で声を出す。
「そういうと思って仕込んでたんだ!」
彼女はこちらを見ずに冷蔵庫を開けた。
彼女はいい奥さんになるだろう。本当に僕には勿体なさすぎる。
彼女の背中に向かって小さくごめん、と呟いた。
目が覚めると涙が流れた。
いつのまにか外は暗く、静かになっている。
猫はどこかにいってしまって、姿が見えない。
テレビはバラエティだったのがドラマに変わっている。
1時間くらい眠っていたのだろうか。
先ほど見た夢の余韻が続く。
今も十分幸せだ。
自由で不満もなくて、心かき乱されることも起きない。
彼女と結婚していたらまた違う幸せもあったのだろう。
何が正解ということはない。
幸せの形なんて人それぞれだし、その時々で変わる。
彼女とはあの後すぐに別れた。
そういえばもうすぐ結婚するって友達から連絡が来ていたな。
彼女も彼女なりの幸せを手に入れたのだろう。
こたつの上にあるみかんを手に取る。
自由である幸せを噛み締めながら、ぎゅっと握りしめた。
1/5/2025, 6:12:07 AM