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好きじゃないのに


「好きじゃないのになぁ」
「まだ言ってるんですか? それ」
隣に座るその人はどこか嬉しそうに笑っていた。好きじゃないと言われ続けているのに、彼が諦めたところを一度も見たことがなかった。
「好きじゃないよ、君のこと」
「それなのに五年も付き合ってくれるんですね。先輩ってやっぱりやさしー」
「優しいのは君の方でしょ? こんな人に五年も費やすなんて、バカだよ」
「バカでいいよ。その代わり、先輩は俺に一生愛されていてください、ね?」
絡み取られた指先にキスをされ、先程付けられた指輪がキラリと光ったのが目に入る。
「好きじゃなかったのになぁ」
呟いたそれが過去のことであることはとっくの昔に気づいていた。
そう、これは君に向けた最初の言葉だ。

3/25/2023, 3:05:01 PM