雨の香り、涙の跡
なんてことのない家庭で育ってちょっと貧乏だったけど幸せに暮らしてた。
そんな日々が続くと漠然と思ってた。
今日も井戸の水汲みから始まって釜に火起こし保存してる芋を調理して食べる。
朝が始まったなそう感じぐいっと背を伸ばし親父さんの手伝いをする。散々こき使ってくれるけどまだまだ半人前、けど給料くれる文ありがたい。
午前中は仕事をして午後からは教会で勉強を習う。
総領様やその遣い様たちのような高度な勉強は出来ないけど最低限はただめ教えてくれる。ありがたいよ、ほんとに。
午後に入り親父さんに挨拶をして教会へ向かう。
大体1時間、神に祈る。
神はこの国をこの島へ創り上げ雨と共に人間を創った。雨により草花が目覚め雨が溜まった湖には神聖な魚が芽生えた。罪を犯した人間は神により動物にされ供物へと浄化される。
祈りを捧げた後神父様に言われる言葉。
この小さな島国に僕達人間を創り上げた神は気に入った人間から神子を罪を犯した人間は動物へと変化させる。
神子様は言葉では表せないほど美しいみたいだ。
数百年に一度現れ沢山の雨をもたらすらしい。
何となく分かるだろう、この国ではあめはとても神聖なものとされている。
そんなこんなで今日も勉強が終わった後家に帰り小さく育ててる芋に水をやってからご飯を食べる。今日も今日とで芋だ。
ある日珍しく雨が降った。神聖な雨として街はてんやわんやの大騒ぎ。親父さんはいつもより早上がりにしてくれまし、祈りも長くなった。
それでも僕には大きな関わりがなかった。
無いと思っていた。
今日も今日とて仕事だと井戸から水を汲むと信じられないほど美味しい水になっていた。びっくりしてお母さんに飲ませても特に変わりないと言われてしまった。
親父さんの仕事に行くとどうやら一発当てたらしく羽振りがよかった。庶民には手が出ないお肉まで貰えてホクホクだ。
教会に行くと神父さんは僕を見てちょっとびっくりしたような顔をした後美味しい萎びていない野菜をくれた。
さらに帰って畑を見てみると芋がとても大きくたくさん実っているじゃないか!!
ちょっと気持ち悪いくらい幸運で明日死なないよなとか思いつつ美味しくいただいた。
この幸運は今日だけと思っていたのだが、要所々々からご飯をいただけなんだか前と比べとても豊かな生活をしていた。
そんなある日気のせいかと思っていた白髪が増えている。手や足から生えている体毛も白い気がする。
お母さんも不思議に思って勉強の帰り神父様に聞いてみたのだが的を得ない返事。もっとたくさんご飯を食べないさいと、。
さらに一週間、家に総領様の遣い様が来た。やんややんやと僕を担いで総領様の御屋敷へと連れてた。
豪華な部屋で美味しいご飯を食べさせられ、とても自分には恐れ多いような贅沢な時間を過ごしてしまった。
何事かと遣い様に聞いてみるが美味しいご飯いりますか?と話をそらされる。
そうやって過ごして一週間弱。僕の体毛は白くなり瞳の色までも白くなった。それどころか少し耳が遠くなった気がする。
お母さんとも会えていないどころか外にも出してもらえず、どうにかならないかと耳を傾ける。
「はぁ…総領様今日も威厳に満ち溢れていてカッコいい」「わかる……」
違う
「知ってる?あの子不倫されたんだって」「え?!ホントに?証拠集めなきゃ」
不倫した男は動物行きだな。
「神子様は順調に同一化しているな」「はいっ!!」
ん?神子様?ここ百年、神子なんて居ないはず……
新しい神子様がいらっしゃったら僕だって知っているはずだ、このお屋敷に神子様が来たという噂は聞いていない。
これでもたくさん噂は入ってきているはずなのにそんなビッグニュース知らないはずが無い。
知らないとしたらもしかすると、、
何となく気づいた。噂はこっそりするものだ。渦中にいるものが知らないのも無理がない。そう、僕が御子であるんじゃないだろうか。それだとだんだん白く変化していく見た目にも納得がいく。こんな症例聞いたことが無い。
神子とは何をするのだろう。なぜ僕に秘匿されているのだろう。分からない。
分からないがこれはきっと喜ぶことだ。
そうしてだんだん慣れてきた美味しいご飯を食べる日々前身真っ白に変化した僕を見て皆笑顔が溢れている。きっと僕が神子で確定だろう。
そうやって過ごしているある日、耳が聞こえなくなった。必死に訴えたがちゃんと喋れているか分からない。お医者様に診てもらうこともない。
神子なのに病気になるとはなんて恥知らず無のだろう、悶々と悩むなか不安そうな僕を見て遣い様が書物を持ってきた。そこには神子様にまつわる記述が、……
『神子は人間から進化した上位者である。人から姿を変え新たな姿へと変化する。それは神が創った動物や魚など様々な種て規則性はない。変化する途中虫が蛹になり成虫と変化するように神子様にも繭となるときが訪れる。その時国民全員で神子様を守るべし。』
そう書かれた書物には人間からまるで違う尾鰭の生えた魚のような人のような怪物がいた。
僕は怖かった。
僕はどうなってしまうのだろう。人から外れてしまう。それは理解していたはずだった。現実が目の前に来ると途端怖くなった。
遣い様がいない時必死に逃げた。音は聞こえない間取りも分からない、視界も悪くなってしまった体を必死に動かして逃げた。
ずっとずっと走って走って走って走った。
雨が降っていた。
知らない細い路地に身を隠して縮こまっていた。あれから3日も経っていないと思う。分からない。目が見えなくなった。
鼻も鈍くなってきた。雨が体に当たっている気がする。分からない。
もう逃げることは出来ないだろう。そう遠くへは逃げれていない御屋敷の近くだ。すぐに見つかるだろう。
ふと雨の香りがした気がした。
脱走した神子様はお屋敷から徒歩5分の路地で見つかった。体は半分以上繭化していた。
お屋敷へ連れ帰り繭化した神子様に祈りを捧げること一ヶ月繭を引きちぎり出てきたのは蚕のような美しい神子様だった。
神子様の羽はキラキラと反射し美しい。
神子様の口は蚕同様退化していた。それでも神に見初められた神子様だ、死ぬことは無いだろう。
あぁ、これでこの国はしばらく安泰だ。
神子はどこでもない虚空を見つめ羽ばたいた。
羽は光に当たりキラキラと輝いていた
fin
羽の反射のキラキラ涙の跡のようなんじゃないですかね
そう言えば山って山の方香りはしますが雨の香りしないんですよ。
6/19/2025, 3:37:07 PM