Ryu

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その女の子は、餓死寸前だった。
三歳で親に捨てられ、行き場もなく、瀕死の状態で町を彷徨っていた。

ある女性が女の子に声をかけ、家に招き入れた。
温かいスープを与え、お風呂で汚れた体を綺麗にして、ふかふかのベッドで眠ることが出来た。

それからというもの、女の子は彼女に育てられ、何不自由なく暮らした。
女の子は、彼女に感謝してもしきれなかった。
彼女がいなかったら、私は路地裏で餓死していただろう、と。

女の子が十七歳になったその日、何の前触れも無く、彼女は女の子を人買い組織に売り飛ばした。
女の子は綺麗な女性に成長しており、かなりの値がついたことだろう。

「私が面倒見れるのはここまでだよ。あとの人生は、自分の力で生きていきなさい。あなたには、それだけの教養や体力が身に付いているはず。私はこのお金で、余生を楽しく過ごすから」

組織の中では酷使され、嵐のように日々が過ぎていった。
時折、彼女との暮らしを思い出す。
幸せだった。
まるで本当に親子のように。

組織で知り合った仲間の女性達と、自分の生い立ちについて話したことがある。

私の話を聞いて、ある人は「それは酷い目にあったね。娘同然のあなたを売るなんて、その女は極悪人だよ」と言った。

ある人は「餓え死にしそうなところを救ってくれて、何の恩義もないのに十年以上も面倒を見てくれた。たくさんのお金も費やしたことだろう。天使のような女性だね」と言う。

そしてある人は、「その女は怪物、モンスターだよ。他人に対して何の感情も持たない。そうでなきゃ、そんな真似が出来るはずがない」と恐ろしそうに呟いた。

きっと、善も悪もそこには無かった。
彼女の生きる道が存在していただけ。
誰もがそうだろう。
善か悪かを判断するのは、いつだってそれを知った周りの人間達だ。

いずれにせよ、あの人は私に命を、人生をくれた。
それだけは事実。
私はあの人を恨まない。追いすがったりもしない。
あの人の幸せを願ったりもせず、他人として生きていく。
そう決めた。それが私の生きる道。

4/27/2024, 1:54:56 AM