病室。
英会話終わりからこんにちは、今日はネタは無いけど意欲はある日。返信考えないでこっち考えてるのは普通に考えておかしいんだけども。
病室というやつは、私の知る限り二種類あるらしいのだ。大部屋に数人が暮らすタイプと、大部屋を独り占めできるタイプ。勿論どちらが高いなんて子供でも分かる。大きいテレビがあって、ソファと机があって、風呂もある。
勿論私は個室がいい。元々身体は弱いどころかとても強く、風邪なんて一回しかかかったこともない。まだ子供で未成年という分類ではあるものの周りから言わせれば大人びていて、大人で、お姉さんで。
個室がいいのだけれど、お姉さんだったから昔大部屋に放り込まれたことがあった。
といっても周りに同年代などおらず、お姉さんだったからお姉さんの更にまたお姉さんとも仲良くできるだろうだなんて安直な考え故に年上ばかりの部屋だった。みんな仲がいいのに私だけぽつんと一人で本を読む。三次元の動画投稿者より二次元や両方行き来するタイプの配信者が好きで、面白いけれど笑わないように、ひっそりとイヤホンをつけて配信を夜遅くまで見漁って過ごした。初めての入院生活。そもそもの話、同じ部屋にいた同じ病人たちはこちらに話しかけることなど一切せず身内ノリで遊んでいた。きっと、私は悪くない。
退院寸前に病が再発して入院生活が延びに延びたこともあり、再発防止にも熱心すぎたあまり入院し始めて三ヶ月目、私は初めて話しかけられた。
名前などもう覚えてはいない。
女の子だった。同い年か、一つ上か。昔からずっと病院暮らしだから世間知らずのある意味箱入り娘で天然、体は弱いのに外に出たがり屋。箱入り娘であるが故に私の求めていた個室で生活していたが、初めて話しかけられたその日に名前を言ってしまったが最後、廊下を練り歩いて気合いで部屋を特定され毎日やってくるようになった。
匂いも声も姿も全て不明瞭な彼女に私は沢山のことを教えて暮らした。好きな歌のこと、配信者など趣味のこと、本で読んだことを知ったかぶって天才かのように話した。ちゃんとお勉強もした。やがて私の方から部屋に訪ねに行くようになり、そこでのびのびと過ごしたり、外や屋上に勝手に行って遊んでみたり、その結果今があったり。ともかくとして今私の中に残っている微かな彼女の記憶は、不明瞭がために輝いていた。
彼女の両親を継ぐために貯められていた彼女自身の遺産は、彼女自身の意向で、一粒のダイヤモンドへと注がれることとなった。
彼女はずっと、ずっと、ずーっと私よりお姉さんをしていたのだ。
私が暮らしていた大部屋から人がまた一人、一人と居なくなる度、大抵数週間もしないうちに新しい病人が足され暮らし始める。その居なくなった人たちの行き先なんて知る気すらもなく、関わったことすら名前すら知らない彼らに割く脳の容量など無かった。
将来の夢を叶えて幸せになってねだなんて大人より現実味のないことをある日突然言った彼女のことで頭がいっぱいで、抜け殻だったし、不運にも私は身体は強いものの心は弱かった。
そしてその願い事を叶えられるほど、私の心体は強くなかった。
病は気からとも言うし、久々の外の生活を満喫する暇もなく逆戻り。配信者にも歌い手にもちゃんとしたアーティストにもなる準備すらまともに出来ず買おうとしたお高いマイクはキャンセル。プラマイマイナスに終わった。
そこまで久々ではない大部屋では、流石に私が一番お姉さんだった。積極的に話しかけに行くように努力した。お姉さんはお姉さんらしく、部屋の中心人物になれたとも思う。
これでいいのだろうか、とも思う。
分からない。何が正解かなんて分からせちゃくれない。献血もドナー登録もした、お金も貯めていた、あと他にすることはあるだろうか。
考えた結果が、部屋の引っ越し。
もう自立しているし、親も仕事の都合で離れた位置にいる。勝手に手続きをした。前の部屋とは違いお金がかかって、広くて、寂しい部屋に変えた。
消えていく悲しみなど知らなくていい。私の担当医のように優しい大人だっているのだ。演技が下手だけど他人思いの人で、子供が大好きな人とか。
私の数少ない遺産は人数分で割って、各々の治療費にでもあててやってほしい。それが出来る出来ないは全くの別として、私は自分にされてしまったことしか出来ない人間だから、一生のお願い。
病室の中が全てじゃない。けど、私たちにとっては病室の中が全て。
せめて病室の中だけでもお姉さんでありたい我儘を叶えてやってくれると嬉しいです。
あの子よりは随分と楽だと思うから。
8/2/2023, 12:41:13 PM