Ryu

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あの日の景色を、私はテレビの中でしか見ていない。
栄華を誇る双子ビルに、たくさんの人を乗せた旅客機が突っ込んでゆく。
ビルの中にもたくさんの人がいただろう。
そこから煙が上がり、紙吹雪のように舞う資料や、外壁材、そして、人。
当時、六畳二間のアパートで、呆けたように画面を見つめていた。

何が起こっているんだ?
こんなことが起きたら、人がたくさん死ぬじゃないか。
絶対に起きちゃいけないことじゃないか。
だが、それは現実に起こっていた。
たくさんの人達が、死んでゆく。
その光景を目の当たりにしていた。
そして、呆然としている私たちの目の前で、そのビルは崩れ去った。

あの日の景色。
職場のビルが大きく揺れた。
だが、そのしばらく後、テレビの画面に映し出されたのは、たくさんの家や車が流されていく映像。
隣で同じ光景を見ていた同僚は、
「これ、日本で起きてるわけじゃないよな?」
そう言って、静かに仕事に戻っていった。
だがそれは、東北近海で起きた地震により発生した津波に飲み込まれて、為すすべもなく失われてゆく、命だった。

これらの景色を、私はしっかりとこの目で見た。
だけど、それはテレビ画面の中での出来事。
私はその場にいなかった。
でも、あそこにはたくさんの人達がいたんだ。
起きてはいけない出来事が起きている場所に。
一瞬にして大切な命が奪われる場所に。
私には、あの日見た景色を忘れずにいることくらいしか出来ない。
いや、忘れることなど出来ないだろう、あの日の景色を。

7/8/2025, 10:21:26 PM