たそがれどき、君は悲しげな顔になる。
「どうして?」
と訊くと、
「あたしは耳が聞こえないから、あなたの口の動きや表情を見て何が言いたいのかを知れる。でも、この時間帯になると、暗く翳って見えなくなる。それがなんだか切ないの」
ゆっくり、僕にわかるように大きく口を動かして伝える君。声にならない声で。
手話を覚えようと懸命に頑張っていた僕だけど、たそがれには勝てないのか。
悔しいなぁ。僕たちは太陽の光が失われると、気持ちのやりとり自体が危うい。
でもね、と僕は思いなおし、君の肩を抱きしめる。そっと。
そして、
「暗くなったら、こうやって話をしよう。こうすればからだを通じて僕の声が響くだろう?」
微かな震えが届くといい。君に。
すると君はいったん身を離して「何を言ってるか、わからないよ」と首をかしげた。
でもどこか、嬉しそうに目を細めて。
僕は言う。宵闇を背負いながら。
「わかるよ、何をどう言ってても、基本、僕が君に伝えたいことは一つだから」
もう一度君を抱き締めて、
好きだよ。
そう言うと、僕の背に腕をギュッと回して君は泣いた。声を殺して。
それ以来僕は、たそがれどきは、そんなに嫌いじゃない。
#たそがれ
「声が聞こえる4」
10/1/2024, 10:57:26 AM