僕は、天才だから。
「𓏸𓏸なら何でも出来るわ!」
「𓏸𓏸、お前は天才なんだ」
僕は、秀才だから。
「……テスト、100点が当たり前よね?」
「97点か……今日は補習だ」
僕は、
「何でこの程度の事が出来ないの!」
「お前には失望したよ」
小学校と中学校は成績トップだった。先生からの評価も良くて、運動も勉強もできる。行事ではリーダーを務め、周りからも頼られる僕。
沢山甘やかされて生きてきた。テストで90点台を取れば、褒めてくれてゲームを買ってくれた。お手伝いをすれば、お小遣いが貰えた。
僕は高校生になった。少しレベルの高い高校に入った。勉強も部活も忙しくなって、家事も合わせてするとなると自由時間は0だった。削ることの出来る時間は睡眠時間くらいだ。
僕はおかしくなっていった。僕だけじゃない、親も周りも、僕は1人になっていく。ヒソヒソ、ひそひそ。聞こえてくる嫌な声。
「𓏸𓏸君とは友達になれないかな」
「分かる、何か噛み合わないよね」
「𓏸𓏸は優秀なの。もっと出来る子のはずなのよ」
「そうだな。俺達は間違ってないさ」
人から向けられる目が、視線が、感情が……怖い。深夜、家という名の檻から脱走して、山奥へひたすらに走る。ひたすらに、ただ奥を目指して。
意識が朦朧とする。寝不足と疲労が相まって、急に動き出した体に身体が追いついていない。視界が歪む。まだ、こんなところじゃあそこから逃げられない、まだ。
……不思議な花畑に出た。色鮮やかな1面の花げしきに、蝶が飛び回っている。ボロボロの体は、無意識に花のカーペットへ仰向けになって寝っ転がった。
ぽかぽか、ふわふわ。夢みたいな空間で僕は目を閉じる。
僕は、天才だった。
僕は、秀才だった。
僕は、
ぼくは、しあわせじゃなかった。
『蝶よ花よ』
8/8/2024, 10:23:42 AM