龍海

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ありがとう


夜空に星が瞬く頃、僕は駅のホームに立っていた。スーツケースを片手に、新幹線の到着を待ちながら、これまでの人生で出会った人々の顔を思い浮かべていた。

「もう戻れないかもしれないな」と心の中で呟く。これから向かうのは遠い地。新しい環境、新しい仕事、新しい自分が待っている。それでも、ふと胸の奥に温かい感情が広がった。



「龍、ご飯が冷めるわよ!」
母の声が懐かしく響く。毎朝いびきをかく父を叩き起こし、学校へ向かう蒼に弁当を渡してくれた母。いつも文句ばかり言っていた自分が恥ずかしい。
「母さん、ありがとう。あの弁当、最高だったよ」



高校時代、放課後の教室で笑い合った仲間たち。くだらない話で盛り上がり、テスト前には一緒に勉強した。
「みんなと過ごした時間は、今でも僕の宝物だ。ありがとう」



社会人なりたての頃、将来を語り合い、共に過ごした元恋人。別れは辛かったが、彼女のおかげで人を本気で愛することを学んだ。
「君が教えてくれた優しさ、忘れない。ありがとう」



社会人になり、仕事に追われる日々の中で支え合った同僚たち。仕事の厳しさと楽しさを教えてくれた先輩。
「失敗して落ち込んだ時、励ましてくれてありがとう。先輩、あなたの背中を追いかけるのが楽しかった」



「僕、幸せだったな」龍は小さく笑う。会えなくなる寂しさはあるが、それ以上に、ここまで支えられてきた感謝の気持ちが溢れてくる。

遠くから新幹線のライトが見えた。車両が近づくたびに、胸が高鳴る。新しい世界に足を踏み出す時だ。スーツケースを握り直し、ホームの端へと歩き出す。

車内に座ると、窓の外に見える街の明かりが少しずつ遠ざかっていく。龍は静かに目を閉じ、心の中でつぶやいた。

「みんな、本当にありがとう。僕はこれからも頑張るよ」

そして、新しい世界への一歩が始まった。

2/14/2025, 10:16:25 AM