任務に行く時、君は躊躇いがちに必ず決まって「気をつけていってらっしゃい」と声をかける。
「気をつけて」の中には「怪我をしないで。何かあったらすぐに知らせて。危ない事に巻き込まれることなく無事で帰ってきて欲しい…」他にももっと俺を心配するたくさんの言葉がひとつに集約されている。俺を見送ったあと君は『神様へ』俺の無事を願いに神像のもとに赴くのだと先日、友人がうっかり口を滑らせたことで知った。多く望んではいけないと君は思っているんだろう。だから短くしている。
「うん、気をつけるよ」
俺はそれに言葉ひとつで返すんだ。すると一瞬、ホッとした顔を見せて抱き締めてくれる。元気を分け与えられるような力一杯の抱擁。俺もなるだけ、折ってしまわないよう君の柔い体を覚えるように腕を回す。これがいつもの見送る前の挨拶になっている。
終わりがはっきりと分からない長引きそうな任務、俺の我が儘は聞いてもらえるだろうか?
「たまにはさ、いってらっしゃいのキスが欲しいな」
「…お帰りなさいのキスしかしません」
ふいっと顔を俺の胸に埋めていき頑なに拒まれてしまった。任務で疲れきった体を引き摺って君のもとに帰ると晴れやかな顔で迎え入れてくれるが、それではいつもと同じだ。ごにょごにょ口ごもって
「帰ってきたら好きなだけ、してもいいけど…」
「それ、ほんとう?」
「長くなるかもしれないんでしょ?楽しみは帰って来たら。ちゃんとここで待ってるから」
クリアな声に視線を下げると見上げる君と目があった。眉が下がってとても心配だと顔に書いてある。一歩間違えば今生の別れに成りかねない、だから君は熱心な信者でもないのにその時だけ『神様へ』願いに行く。それを知ってしまったら益々いとおしく、離れがたくて。やっぱり、今キスがしたいと思う俺がいる。
「ごめん」
がしりと体を固定して身を屈ませて君の髪に、前髪を払いのけ額に。目もとに両頬に次々と唇を落としていった。
「ちょっと、」
「口は楽しみしてるからさ。あとはここだけ」
「…いっ!」
服を脱がなければ見えない場所に強く強く吸い付いた。君はわたわたと腕の中で暴れるけどなんのことはない。赤く咲いた花は白い肌によく似合う。出来ればこの痕が薄くなってすっかり綺麗になる前に、早く君のもとへ帰りたい。
4/15/2023, 9:15:41 AM