〈セツナノキセキ〉
───奇跡は必ず起こるから
俺は小さい頃から脚が弱かった。それだけじゃなくて体も周りより弱く、よく体調を崩していた。
それでもデビューをし、クラシックまでダートで走った。ダート三冠という栄誉ももらい、シニアからは芝で走った。ダートとは違う感触。だが内にあったのはいつも、走りたい衝動だけだった。
純粋にレースを、競り合いを楽しむ気持ちだけが。
年度最後の大レースに出場が決まった秋、トレーニングの休憩の時に片足だけ立てなくなった。俺の足じゃなくなったように力が入らなかった。
でも最後に京都大賞典をラストランに選んだ。
テーピングを何重にも巻き、いつも以上にストレッチもした。
デビューの頃よりも俺を応援してくれる人がいる。ファンファーレが鳴り終えた今もその声は止まなかった。
残り400メートル。脚に力が入らなくなってきた。半バ身追い越されていた。
でも、ゴール板を駆け抜け、着順表を見たら俺が1着だった。1バ身差の勝利。
ゴールした後、ファンたちは俺に向かってこう言った。
ーー最後の奇跡をありがとう
ーー泡沫の夢を見せてくれてありがとう、と。
奇跡は起こる、俺が最初で最後に実感したことだ。
3/31/2026, 3:02:02 PM