隣に横たわった兄の頬に、雪が降っている。
目の見えない双子の兄は、雪をどのように感じているのだろうと、ぼんやり思った。
「…しんしんと、降るんだよ」
「本当に、しんしんと」
僕の心がわかっているかのように、兄が答える。
「…そうなんだ」
「……うん。誰が言ったんだろう。雪がしんしんと降っているだなんて。……全くその通りなんだ。」
「すごく静かなんだ。どこも、かしこも。雨が降るときは、コンクリートのかたさ、だとか、車の水たまりを跳ね返す音、だとか、そういうのが全部耳から入ってくるのに、雪が降るときは静かなんだ」
「風の音はするけれど、風がないとき、ここはどこなんだろうって気持ちになる。それはとても心地がいい。僕は雪が好きだよ」
───お前は?
そう、兄に問われる。
少し思案する。
「………オレも、雪がすきだよ。たぶん。」
それで言葉に詰まる。
兄は自分の世界をとても美しい言葉にして僕に伝えてくれるのに、僕は僕の世界を上手く伝えられない。
同じ遺伝子なのに、どうしてここまで違うのだろうか。
それでも兄は僕の言葉を待っていてくれている。
兄がいると、沈黙さえ美しい時間になる。
「雪は…真っ白なんだ。兄さんの持つ、しろいつえみたいに…。いや、少し違うな…。白くて…でも、よく見ると、透明で……。光を吸い込んでるみたいに、雪があるところは明るいんだ……。それが、たしかに、すごく……綺麗で……」
僕がそれきり言葉を紡げなくなると、兄さんが優しく微笑むのがわかった。
「そっか」
そう言って、しばらくそのままでいた。
「寒くなってきた。もう、夕方かな」
兄が言う。
たしかに、もう、暗くなってきていた。
でも、僕は戻りたくなかった。
そうすると兄が立ち上がって、僕に手を伸ばした。
「帰ろう。ついてきなよ」
「今日は僕が、お前を家まで連れて行ってやる。時間かかると思うから、お前は好きな話でもしてろよ」
兄が明るい顔でそういうのを、眩しく見て、その手を取った。
そして手を繋ぎながら歩く。
いつもの帰り道を、ゆっくり、ゆっくり歩いていた。
1/7/2026, 3:27:00 PM