この世界は誰かの作った理想郷だ。
暗く閉ざされた空。無風の街中。すぐ傍にある世界の最果てと⋯⋯時々見えるたくさんの泡。
私達の世界は最果てにある透明な板1枚で守られていて、どうやって酸素を維持しているのかとか、何故こんな場所に街を作ったのかとか。疑問は尽きないけど⋯⋯この狭い箱庭(せかい)が私達の全てだった。
昔はもっと世界は広くて、空は色を変えながらその日その日を彩っていたらしい。
その世界には風が吹き、雨が振り、雷が落ちたり雹という氷の粒が降ってきたり。不思議な事がたくさんあったと先生は言っていた。
私達のこの世界は、先人達が技術を結集させて作ったもので、先の未来で起こるであろう事象から人類を守る為に作られたらしい。
そして数百年前に先人達が想定していた通りの事が起こって、今私達はこの場所で生きている。
どんな事が起こったのかはまだ習っていないけど⋯⋯私は昔の世界を見てみたかった。
色が変わる空だとか、様々な事象が起こる自然とか、風が運んでくるという様々な匂いとか。その全てを感じてみたいと思ってしまう。
叶わない願いだと分かっていても⋯⋯知ってしまった美しい世界に焦がれてしまうのは悪い事なのだろうか?
願わくばいつか、先人達の想定した事象が解決して、また昔の世界に⋯⋯あの遥か遠くの空を見れる日が来て、このガラス張りの世界から出られますように。
5/14/2025, 1:13:54 PM