隣からふわりと香る甘い匂い
ゴツゴツした細い指
全部好きだった。
声も、話し方も、態度も。
でも私は知ってる。
あなたが来年教師をやめることも
あなたが薬指に指輪を嵌めていることも。
だからこうしてわざと悪い点をとってるの。
放課後教室に二人きりで居れるから。
けどもう、明日からあなたの顔を見ることはできない。
なら別に無理に追いかけたりしない。
「高木待てっ、、」
「……」
カーテンが揺れて二人が影になる。
「全部先生のせいだから」
先生の目を見つめて私は言う。
唇を指で撫でる仕草をしながら私を見つめる先生の姿は、今までで1番悲しそうな顔をしていた。
「先生、待ってるから」
先生の薬指が光った。
「…それ、次は外してきてね」
私は教室を出た。
私が教室から出るまで先生は一度も声をかけなかった。
なんだか少しだけ目の奥が痛む気がした。
10/12/2024, 8:03:01 PM