『無色の世界』
日々を彩るのは一体なんなんだろう。
メシを食い、作業をこなし、またメシを食う。
だるいなあと内心思いつつ、また振り分けられた作業を終業時間までする。
そんな毎日をひたすら、ただひたすらに続ける。
冷たい空気も温かい空気もない。
そこにあるのはただのコンクリートの壁一面。
たまに友人と会い、少々会話を弾ませ、また会いに来るよと友人が消え去る。その時だけ、たった少しだけど、人の温もりを感じて、でも、それでも俺の世界は無色。ただひたすら無色なんだ。
深海に潜ったみたいに目が開かない。
山の最高峰へ来たような息苦しさ。
ここへ来て8年と23日。
いつ俺の人生が彩られるかなんて考える時間もなく、何もない、無色に彩られた部屋で夜メシまで時間を潰す。
金があれば美味いものが食える。
金ばあればだがな。
俺は夜メシを食うとすぐ寝る。
6時20分には起こされるからだ。
たいして毎日体を動かしているわけではないが、ただひたすら、早く眠るんだ。
ただそんな日々を送る。
今日が月曜日とか、明日は火曜日とか知らない。
今何時かなんて、この部屋にいる時はわかるわけないし、気がつくと朝がやってくる。
8年と24日目がきた。
今朝の天気は妙に輝いて見えた。
だが、それが終了の合図だと、悟った。
「出房だ」
見慣れた顔の聞き慣れた声に、周りの皆が言われる言葉をあれはついに今日言われた。
この言葉を聞くと皆涙を流したり、叫んだり、嘘だ嘘だと見慣れた顔の聞き慣れた声のあいつに問うんだ。
8年。24日。それは俺にとって短いもので、早いものだった。俺は見慣れた顔の聞き慣れた声のやつは淡々と説明していく。それは、俺が死ぬことを指す説明だ。
聞いたところで結末は死ぬことで、流し聞きをした。
最後の晩餐。何を食べたいか聞かれた。
正直なんでも良かった。なんなら食べなくても良かった。だが、聞かれたことにはやはり答えないといけない。俺は見慣れた顔の聞き慣れた声のやつにきいた。
「多くの奴が食べたがるのはなんですか?」
「最近だとステーキだな。」
「そうなんですね、、」
沈黙が続く。
俺決め、口を開いた。
「ごま塩ごはんで。」
俺の8年と24日はいつまでも無色だった。
最後に食べるメシは、白と黒。
無色の世界に彩られなものは必要なくて。
それは俺のせめてでもの償いだった。
「じゃあ、ごま塩ご飯を食べた後、また声かけるからな。」
そこからは時がゆっくりで、いつだいつだと最後の景色を見渡した。そして、なかなか呼ばれないから、眠りにつこうとした。そんな瞬間だ。奴が来た。そして俺は察した。最後の眠りは今日の朝で終わりなのだ。
もう2度と眠気で眠りにつくことはないのだ。
「いくぞ」
連れられる部屋に文句も思い出話もしない。
「じゃあな。」
立たされたとこに、俺はもう死ぬんだな。と目を瞑った。
無彩色の世界。
4/19/2024, 12:41:34 PM