冬眠中

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あなたは九月の半ばに生まれた
上のきょうだいは、生まれ、すぐに亡くなった
名前をつける間もなく
亡くなったきょうだいに付けるはずの言葉の一字が、あなたの名に与えられた
大きくなってから、あなたが父親から聞いた話

あなたには弟妹がいた
上にも姉たちがいたが、年が離れていた
あなたはちょうど真ん中の、三番目のきょうだい

たくさんのきょうだいを産み、母親は亡くなった
上の姉たちは嫁いでいる
残された弟妹の面倒をみることにした
あなたは女学生

戦争の時代だった
いくつかの戦争が起きたが、ニュースは良い結果しか言わない
普通に暮らしを送りながら、学生生活を過ごしながら、戦争の色は日々の中に滲んでいく
じわじわと破滅に向かう
ぬかるみの中

敵が来たらと竹槍を持たされ
油を採るために松の木の根を掘り
戦地に向かう人のためにひと針を刺す
千人針なんて刺したところで、銃で撃たれたら死んじゃうのにね、
と、あなたは思う

焼夷弾に家を町を燃やされた
川の側に折り重なる死体を見た
焼け焦げた死体は手足が縮まる
町中に死体があった

あなたと家族は生き延びた
生き延びて、生き続けた

百四年の秋を繰り返し
生きたあなたのことを思う

ばあちゃん
秋生まれのあなたは、淡い紫色が好きだったね
秋になると、あなたが好きな色を見ると、あなたのことを思い出す

生きてくれて、私の祖母でいてくれて、ありがとう
あなたと過ごせたことは、とても、有り難いことでした

また、あなたと話せたらいいのになあ

9/19/2025, 2:44:04 PM