『安らかな瞳』
「杏仁豆腐ってぇ、マジ安らかな瞳してると思わん?」
「…………は?」
俺はギャルの幼馴染に対して、心の中でツッコんだ。
——豆腐に目なんて、ねぇよ。と。
○○○
「卵豆腐はぁ、王子様みたいな優しげタレ目でぇ」
「ふんふん」
「絹豆腐はぁ、涼やかな大和撫子風のスっとしたキレ長の瞳」
「ほー」
「で、木綿豆腐はぁ、昔ながらの頑固親父のガチガチ系」
「お、おう……そうか」
「分かるっしょー?」
「いや、全然分からんが??」
マジで才能なぁいー、ウケるー!
と腹を抱えて笑うギャルに、俺は引き攣った顔で笑いを返した。
……笑いたいのは、俺の方なんだが?? と。
昔から、幼馴染は浮世離れしていた。
まるで自分とは違う世界が見えているみたいに。
「あっほら、宇宙人が来たよ」
「あーはいはい」
いや、流石に宇宙人は嘘だろ。
そんな軽い気持ちで流した事を、俺は明日後悔する。
○○○
「おはようございます、隣に引っ越してきました。杏仁豆腐星人のアン・ニンドです」
翌日、杏仁豆腐の頭部を持った宇宙人が、家の隣に引っ越し挨拶に来たからだ。
「これ、つまらないものですが……どうぞ」
そう言って渡された杏仁豆腐。
そっと視線をあげると、目が合った。
——とても、安らかな瞳をしていた。
「は、はは……ご丁寧に、どうも」
たぶん俺の笑顔は、人生最大にひきつっていただろう。
おわり
3/14/2026, 11:04:49 AM