その日は、あいつの誕生日だった。
いつものように不安に駆られたあいつに呼び出されて、僕らはいつものように、しこたま飲んだ。
そして程よく酔っ払ったあたりで、僕はいつもあいつを慰める時とおんなじように、あいつに向かって両手を広げた。
僕より10センチも上背のあるあいつは、それなのに、赤ん坊みたいなところがあって、あいつは何かを抱き締めないと、泣くことも怒ることもできなかったのだ。
だから、こういう時は、友人である僕が、その役目を請け負っていた。
しかも、本人はシラフで友人に抱きつくとか、そういうのは気まずいと気にする方だったから、必ず酒を入れてから。
都合のいいことに、僕の方が酒には強かったし、あいつは絡み酒だった。
というわけで、今日もまたいつもと同じように、僕は、あいつの口が多少滑らかになったところで酒を切り上げて、あいつに抱き締められる準備を整えた。
そのうちに、あいつが黙り、沈黙が訪れる。
そうして、正面から、ずっしりと、我が友人の体重がのしかかる。
重たいあいつの頭が僕の肩にふってくる。
耳は嫌でも、あいつの耳の横にあり、だから僕は、耳を澄ませるまでもなく、あいつの動向を聞くことができる。
砂時計の音が部屋に響く。
静寂の中の砂時計の音が伴奏だったかのように、不意にあいつの控えめな啜り泣きが、鼓膜を震わす。
あいつが泣いている。
10/17/2025, 10:00:12 PM