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 夜になると思い出す。

 蝉の声、誰もいない音楽室、捲るカウントダウンカレンダー。朝から晩まで、楽器を吹くことしか考えていなかったあの一ヶ月間。

 苦手だった後輩と、いざ向き合ってみればすごくいい子で仲良くなれたこと。
 なりたい自分を受け入れてくれた空間。
 努力は報われるのだと、綺麗事だと思っていた言葉に酷く納得した文月の終わり。

 戻りたい。そう毎晩涙を零すのは、楽器を手に取ってからずっと、本気で向き合ってきた訳では無いから。自分が一番理解している。
 無情にも私にとって楽器は、車や電車の窓から見る外の景色と同じで、流れ行くもの。そうさせたのは、他でもない自分。

 次の駅で降りる。
 たくさんの想い出を抱えて、前を向くしかない。泣いてもいいのだと、思いたい。

 全身全霊で向き合えるものを、見つけられるだろうか。

11/18/2024, 11:24:51 AM