「大好きな花の名から付けたのよ」
そう言って小さく笑った私の母は花瓶をひっくり返し、あの頃の面影も残さぬまま消えてしまった。
部屋はぐちゃぐちゃで2人きりで笑って過ごしたその綺麗な記憶を塗り潰すような惨状に溜息を漏らし項垂れる。
大好きだったのならどうしてこんな事をするの。
落ちた花弁を1枚1枚拾って、ふと窓の外を見つめる。
……あぁ、こんな事なら、こんな小さな花瓶の中の存在じゃなくてもっと外で大輪を咲かす花になりたかったな。
ねぇ、お母さん。
お母さん。
こんな事なら、私にこの花の名前を付けないでほしかった。
大好きだったこの花が、今はもう嫌いなんです。
7/21/2024, 8:34:46 AM