G14

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「こちら市役所です。
 午後五時をお知らせします。
 子供は家に帰る時間です。
 車に気を付けてください」

 17時00分、俺は市役所の放送室にいた。
 俺の仕事は午後17時きっかりに、夕焼けチャイムを流すこと。
 決められた時間に決められたボタンを押すだけの仕事だけど、給料はきっちり出る。

 夕方チャイムとは、防災行政無線を通して行われている。
 災害が発生したとき、これで避難や災害状況を知らせるのだが、その時に壊れていては意味がない。
 ということで、毎日決まった時間に点検を兼ねてチャイムや音楽を流しているのである。

 だがこういったものは、令和の時代において自動化されているもの。
 だが、施設の老朽化とやらで肝心の自動化システムが壊れてしまったらしい。
 それで応急処置として俺が雇われたってわけ。

 だから俺は雇われた最初の日に、役人にいつ直すのか聞いた。
 俺はあくまでも代理であり、機械を直せばお役ごめんなのだ。
 だが市役所側の答えは、俺にとって意外なものだった。
 『直さない』

 この市は過疎化が進んでいて、碌に税金が入ってこないらしい。
 『慢性的な財政難であり、とても修理費なんて出せやしない』とのこと

 俺は『言いたいことは分かるけど、それ逆にお金かからない?』と返したのだが回答は変わらず。
 貧乏って嫌だね。
 そして『だがいつかは直す、いつかは分からないけど』と言って、はや3年。
 市役所のやつら、壊れているのを忘れている可能性がある

 ともかく俺は毎日、夕方チャイムを流すお仕事をしている。
 地味だけど、皆のためになるやりがいのある仕事。
 俺はとても満足している

 え?
 ボタンを押すだけのお仕事、飽きないのかって?
 ところが楽しいんだなあ、コレが。

 実はさっきの『おしらせ』の音声、録音されたものじゃない。
 録音された音声を流す機械も、普通に壊れているのだ。
 貧乏って嫌だね(2回目)

 ただしマイクは使える。
 ということで、誰かがしゃべる必要があるんだけど……
 それが俺だと思うだろ?
 違うんだなあ。

 喋るのは俺じゃない。
 ウチで飼っているインコたちだ。

 始めこそ俺がやっていたが、ある日『インコにやらせたら面白んじゃね?』と思った。
 善は急げで芸を仕込んでやらせてみたら、案外そつなくこなす。
 俺よりもだ。

 今では毎日インコが夕方チャイムでしゃべっている。
 市民の皆さんにも評判は上々だ。
 本音はウチのインコを自慢したいだけだったが、ここまで評判がいいと俺まで嬉しくなる。
 ただ人間ではなく鳥なので、たまに予定外のことをしゃべるトラブルもある。
 それも含めて愛されているけどな。

 物珍しいとのことで、わざわざ市外から聞きに来る人がいるほど。
 移住してきた人もいるそうで市役所の人たちも喜んでいた。
 大活躍のインコに、市役所がボーナスとして高級おやつをプレゼントしたくらいだ。
 俺には無かったが……
 まあいいけどさ。

 そして次の日も、夕方チャイムの時間がやって来た。
 俺は設備の前でスイッチを押す準備をする。
 横目で相棒のインコを見れば、静かに集中していた。
 ウグイス嬢ならぬインコ嬢。
 どこまで分かってるか分からないけど、頼もしい限りだ。

「時間だ、いくぞ」
「ハーイ」
「3,2,1」

 そしてインコが時を告げる。
 
「こちら市役所です。
 午後五時をお知らせします。
 子供は家に帰る時間です。
 車に気を付けてください」

9/7/2024, 3:32:10 PM