うみ

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 ──朝に眠る。


 ゆるゆると眠りから醒めていく。あたたかい寝巻きでも、やはり起きたばかりは肌寒い。少しだけ身を縮めた。
 心地よい毛布を振り切って体を起こし、朝の光に目を慣らそうと何度か瞬きをする。カーテンの隙間から差し込んだ朝日が埃を光らせていた。毛布を退けた拍子に舞ったらしい。それとも、そろそろ掃除どきだろうか。

 気まぐれに、隣で眠る焦茶色の髪に手を滑らせてみる。自分の髪とは似ても似つかない柔らかさだ。以前に、雨の日は手入れが大変だとぼやいていたのが新鮮だった。両親も姉も自分も、揃って癖のない直毛だから。
 友人からは羨ましいと言われるものの、私からすれば当の友人の髪が少しばかり憧れだったりする。多少癖がついていた方が、可愛げがあるような気がして。

 それにしてもぐっすりと眠っている。そういえば、昨日は夜勤だったろうか。ならば帰ってきたのはつい数時間前で、今日は昼近くまで寝たままだろう。


 ……この場合、おはようとおやすみとどちらが正しいのだろう。もう朝だから、挨拶としては「おはよう」のような気がする。ただ相手が眠りについてからさほど時間は経っていない。それなら、ゆっくりと休めるように「おやすみ」でも良いのか。

 まあ、こんなことを長々と考えている時点で寝ぼけているのかもしれないが。
 決着の付かない脳内での論戦を互いに不戦勝として、静かな寝息を立てる相手の額に唇を落とす。

 ──おはよう、それからおやすみ。良い夢と良い目覚めを。
 
 崩れた布団を肩まで引き上げてやって、そっとベッドを降りた。
 今日は久しぶりに、二人揃っての休日だ。



(光と闇の狭間で)




 これで八十作品目です。いつも読んでいただきありがとうございます。

12/2/2024, 12:29:34 PM