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一つだけ



人は産まれた時に必ず椅子を持って生まれる。

『存在』しているという証は
望む、望まないとしても必ず持っている居場所だったりするんだろう。

だとしたら『作られた命』はどうなんだ。
自然に産まれたものではない。
望まれて産まれたわけでもない。

道具として作られて
感情を持ってしまった。
人ではない人ならざるもの。

ましてや奪ってしまった俺はなんなんだ。

たった一つだけの椅子を奪いあうように
存在してしまった俺は、存在するだけで罪の証だった。
でも罪だと認めてしまえるほどに簡単な話でもない。だってティアは言うんだ。『ちゃんと見てる』って。変わってみせたかった。たとえ死ぬまで拭えない罪で両手が赤く染まり続けていても。

存在するだけで憎まれるレプリカは俺自身だった。望まれて産まれたわけじゃない。でも生きたかった。世界がどんなに辛くても、苦しいことだらけでも、それでも美しくて、そして好きだった。

世界でひとりぼっちだと思っていた。
憎まれるだけだと思っていた。
俺が奪ってしまった居場所を、いるべき人間に変えそうとした。そしたらアイツさ、顔真っ赤にして怒るんだ。
ずっとアイツ、俺を憎んでた筈なのに情けない事を言うなって。そんでわざわざレムの塔で助け舟まで出すんだぜ。天邪鬼すぎるよな。涙が出そうなくらい嬉しかった。

本当はさ、俺は『模造品』として世界の役に立って死にたかった。だってそうでもしなきゃ生まれてきた意味がわからなかった。
望まれて生まれてきたわけでない。
俺がみんなを不幸にすると思ってた。
そんなの望まない。だってさ、俺みんなが好きだったから。

死にたいって思ってたのに、死にたくないって怖かった。本当は誰からも必要ないって思われるのが怖かった。必要とされたかった。誰かの椅子を奪うんじゃなくて俺の、俺だけの一つだけの椅子が欲しかった。無いものねだりだっただけで、もうすぐ俺の時計が止まる。そうなってから初めて気がついた。
椅子なんてものみんな持ってなかった。
そんなの幻想だったんだ。
俺は俺が生きてるって安心感を他人に委ねたかった。そうじゃない、そうじゃなかったんだな。

昔イオンが言っていた。
『貴方は貴方であるだけでいい』って。

同じレプリカ同士の憐れみだと思ってた。
そうじゃない。お前はちゃんと全部わかってたんだ。もう居なくなってしまった差し出された手を、今ようやく握れる気がする。

誰から必要とされるから生きているわけではなくて、誰かを必要とするから生きているわけでもない。そんなの関係なく、生きている。命が続くから生きていて、だからその時間で何かを掴むことで、俺は俺を肯定するだけなんだ。

残された時間はもう僅かだろう。
頻繁にジェイドが点滴を打つように薦めてくる。
飄々としたいつもの顔に、隠しきれない切迫感を感じて嬉しくなった。
あのジェイドが、なんて昔の俺だったら嫌味なだけだとしか思えなかっただろう。口元に笑みが溢れる。

夜空の先には天空に立つエルドラントが見える。
随分と遠くに来てしまった。
明日には最終決戦となる地に立つことになるだろう。

最後まで保ってくれよ、俺の体。

かの地の先で待つ敵はかつての師だ。
止めなくていけない。
誰のためでもない。何かを成す為でもない。
自己犠牲でもない。
ただ話をしたい。結果として互いに剣を向けることになっても。

人は変わる。
良くも悪くも。
それは俺も、みんなも、誰も彼もだ。
何かを掴む為に人は選ぶ。
でも俺は誰かの犠牲の上にそれを成してはならないと思う。

偽りの過去をもち
偽りの命を与えられた俺が

たった一つだけ掴んだ答えこそが
本物であると証明する為に。

決戦の地は目の前で待っている。




4/4/2026, 10:09:35 AM