なるべく考えないようにしていた、ひとつの問い。
勉強で分からないことは放置してはいけないと教わってきたけれど、この問いだけはどんなに考えても分からなかったから、ずっと見て見ぬふりをしてきた。
それが今となっては、自分の首を締め付けてくるような存在になってしまった気がする。
誰もいない電車の中で、ため息をついて外の景色を見る。やけに綺麗なお月様が、空にプカプカと浮かんでいた。
夢を叶えて、しがらみから逃れて、あの時望んでいた幸せを手に入れた。
それでいたって1人は、さみしい。それでももう、人と関わるのも、深い関係を築くのも怖くなってしまったから、もう、寂しい気持ちを取り除くのは不可能になってしまった。
やはり、無理してでも、誰かと繋がっておくべきだったのだろうか。
大人になれば好きになれると思っていた人たちのことを、今の私だったら、好きになれたのだろうか。
そんな未来がやってきたら、どんな幸せを手に入れられたのだろうか。
電車がゆっくりと停車する。駅に着いたらしく、何人か人が電車に乗ってくる。
すると、足元がフラフラとしていて、顔も少しやつれている男の人が、私の前に立って、優しく私に話しかけた。
「あの、大丈夫ですか」
その言葉の意味を理解した時には、もう涙を止めることは出来なくなっていて、私は慌てて裾で涙をふいて、
「大丈夫です」
なんて蚊の鳴くような声で言った。こんな歳にもなって、人前でなくだなんて、情けない。
男の人は、私の隣にゆっくりと腰掛ける。そして、無言で私に無地の黒いハンカチを手渡す。
私はお礼を言って受け取る。男の人は、これ以上何も話さなかった。けれど、私が電車をおりるまで、ずっとそばに居てくれた。
久しぶりに、人の暖かさに触れた気がした。
私が降りる駅に着いた時、男の人は眠っていた。私はそっと、彼の膝にハンカチを置いてその場を後にした。
駅の中を歩きながら、胸が暖かくなるのを感じる。
これから先孤独なのは変わりないけれど、それでももう少し、生きていける気がした。
幸せとは、きっと、電車の中で感じた、あの暖かさのことを言うのかもしれない。
1/4/2026, 12:28:19 PM