『罪の名を呼ぶ教会で』
――第一章「雪の下で待つ人」
「死にに来たの?」
その言葉は、まるで冷たい水のように、僕の胸に落ちた。
熱を奪うのではなく、麻痺していた感情を一瞬で覚まさせるような冷たさだった。
なんでそんなことを、あんなに静かに言えるんだろう。
なんで、そんなに当たり前のように。
僕はまだ、ちゃんと決めていなかった気がする。
ただ、歩き疲れて、寒くて、どこにも帰りたくなくて、
気づいたらここに来ていただけで――
「死にたい」なんて、そんな強い言葉を使えるほど、
僕の中には確かなものなんてなかった。
でも、「生きたい」なんて言葉も、もうとうの昔に失くしていた。
僕は何も答えられずに、ただ立ち尽くしていた。
少女は、動かない。こちらに歩み寄りもしないし、追い出そうともしない。
まるで、ずっとそこにいることが自然で、
僕が来ることも、予感していたかのような眼差しだった。
どこかで見たことがあるような瞳だと思った。
テレビの画面越しに見る戦場の子どもたち、
誰かを亡くした人の目、
あるいは、昔、鏡に映っていたはずの自分の目――
そういう類いのものだった。
怖かった。でも、逃げなかった。
たぶん、逃げる理由もなかった。
「……君は、誰?」
かろうじて出せた声は、自分でも情けなくなるほど弱かった。
でも、それでも話したかった。
話すことが、生きてることの証明みたいに思えたから。
彼女は少し間を置いて、ふと目を伏せた。
そして、低く、乾いた声で言った。
「……私は、人を殺した」
心臓が、どくんと跳ねた。
でも――怖いと思うよりも先に、
なぜか、「ああ」と、納得するような感覚があった。
そうか。
この静けさは、その重さだったんだ。
人の命を奪ったことがある人間だけが持つ、
消えない沈黙の色だったんだ。
僕は、立ったまま、何も言えなくなった。
でもその沈黙は、もう寒くなかった。
4/13/2025, 4:48:53 AM